第38話 終の使者

「終の使者ってなんだよ」


 最後の武装はエネルギーの消費が激しく、その上起動に時間がかかる。俺は無駄な消費を抑えて時間稼ぎをするため、広域回線に応答することにした。


『我が祖父の言葉だ。望郷の心を殺し、今あるシステムを完膚なきまでに破壊する存在が「終の使者」だ』


 本星への帰還に反対する勢力が、元老院の中でも少数だが存在することはウィルからの連絡でなんとなく把握していた。だが、それが俺一人に希望を託すようなものだとは思えない。一体こいつとその祖父は何を考えているのか。


「その存在が俺だと?」


 俺が問いかけると、男は笑い声をあげる。


『くはははっ! 思い上がるなよ。お前はそのうちの一人だ。この俺すら越えられないのなら、お前に終わりをもたらす資格はない』


 言っている事は分からないが、言いたい事は分かる。この先へ行きたければ、俺を倒してから行けという事だ。だったら、やることは変わらない。


「資格とか何とか……よくわかんねえな」


 ちょうど武装も「暖まってきた」頃だ。俺は戦闘機動をするために身構える。通常の操縦桿を使う操縦ではなく、ケイを通じて神経的に操作しているため、煩雑な操作を必要としないのは利点だった。


『ふん、来るか――』


 赤黒のDAZEがショットガンを構えて、トリガーを引き絞る。俺はそれと同時に前方へブーストを噴かせ、弾丸の雨に真っ向から突進する。


「ケイ! 防御頼んだ!」

――了解です。


 DAZEの隙間から黒い粘液が溢れ出し、それがショットガンの弾丸を防御する。弾速が早い物が水に弾かれるように、柔らかく頼りない防護が弾けると同時に弾丸の威力を完全に殺していた。


『っ!? それは――』


 ジョーの声を無視して、機体を捩りつつ左の火器管制マニピュレータで隠していた武装を展開、振り下ろす。相手が物理盾を展開するが、その武装は俺の武装にとっては無意味だ。


 青白く輝く刀身が現れ、周囲にプラズマが発生する。数万度を超える熱源は、物理盾を容易に溶断し、相手のDAZE本体も一緒に焼き尽くす。ドロドロに溶けた切断面を晒しつつ、ジョーの乗っている機体は地面へ落下していく。


 溶断型金属カッター。エネルギー消費と取り回しは最悪……というよりも、普通は工場や研究施設でしか使わないような代物だが、俺はそれを無理矢理DAZEに搭載して近接武装にしていた。


「溶断型をDAZEに搭載するなんて……」

「まあ、俺の技術とケイの接続で無理矢理実現させた技術だな」


――バイル。ジェネレータの活動限界が近いです。それと二つある背部ブースターが片方完全に沈黙しました。


「おっと、急がないとな」


 勝利の余韻に浸る間もなく、ケイの忠告に従って左腕をパージして重量を削った後、口を開けている「ノア」へとホバー移動する。


――しかし、さっきの人は何だったんでしょう。

「さあな、痛々しいやつだったが……」


 何にしても、待ち伏せがあったという事は、既に俺が襲撃していることは相手に伝わっているのだろう。搬入口に降り立ったら、使い物にならなくなったDAZEから降りて「ノア」の内部へと向かう事にしよう。




 搬入口は、その場所の性質的に物置のようになっていた。さすがにジャンクヤードのように雑多なものが放置されているようなことはないが、色々と資材が置いてあるので、隠れて進むには絶好の場所だ。


「ブリッジまでのガイドと任意の監視カメラ映像をAR表示します」

「頼んだ。ケイも必要に応じてサポート頼む」

――了解です。現在の所、近くで生体反応は感じませんね。ただ間違いなく私達が侵入しようとしていることはバレている筈です。


 俺はそこまで聞いて頷くと、ジャンヌが表示したルートに沿ってブリッジを目指す事にする。


 監視カメラのハッキングとケイの生物感知を利用して、いくつか遠回りをしつつ「ノア」内部を進む。確かに人の動きを見ると、侵入者話探しているように見える。俺はなるべく人や監視カメラに捕捉されないよう進まなければならなかった。


「……」


 何度も引き返し、遠回りをして進む間に、俺はさっきの戦いでジョーが言っていたことを噛み砕いていた。


 彼は終わりという事を何度も言っていた。それは恐らく、今の状況――元老院が全ての人々を踏み台に本星への帰還を目指している状況を指すのだろう。


 だが、彼はその元老院たちに対して賛成している訳ではなさそうに見えた。なら、何故俺に襲い掛かってきたのか。


――俺すら越えられないのなら、お前に終わりをもたらす資格はない。


 つまり、俺の力を試している? 何のために?


 疑問は尽きないが、今は集中するべきことが他にある。俺は監視カメラの映像から行先に人が居ないことを把握してから、カメラの映像を改ざんしてその先へと進んでいく。


 焦るわけにはいかない。だが、ゆっくりもしていられない。状況は刻一刻と悪くなっているのだ。


 主電源起動前という事で、幸いなことに多くのセキュリティは沈黙している。このままいけば、なんとかブリッジまでは到達できそうだった。

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