10 レイド

第37話 DAZE戦

 メインジェネレータが起動して、主電源が復旧したからと言って、すぐに「ノア」が動き始める訳ではない。


 恐らく今は百年以上喪失していたシステムのチェック作業を行なっている途中か、製造部門へリソースを割いている頃だろう。


『そこの旧型DAZE、止まりなさい』


 追いかけてくる白い機影――治安委員会の制圧用DAZEが広域通信で呼びかけてくる。


――バイル。どうしますか?

「こうする」


 俺は「ノア」の手前にある開けた場所に着地すると、彼らに向けてオートロックでミサイルを射出し、目的地へ向かってブーストを噴かす。


 急場しのぎとはいえ修理をしたのだ。通常機動をする程度なら噴かせても問題はない。


 慣性に任せて「ノア」の方向へと飛びながら、視覚センサーで後方を確認すると、追いかけてくるDAZEは黒煙を上げながら先程の開けた場所に落下していた。どうやらうまい具合に命中したらしい。


「バイルさん。これからどうしましょう?」

「なんにしても元老院側がどういう勢力図になっているのかを知っておきたい。恐らくは『ノア』内部――ブリッジを目指せばある程度の状況は把握できる筈だ。DAZEで乗り込める場所があるならベストだが……」


 我ながら、とんでもない不確かさで乗り込んだものだ。ジャンヌに今の状況を話しつつ、俺は心の中で自嘲する。


 だが、それでも最悪の事態を防ぐためには、このタイミングで突入するしかなかった。


 メインジェネレータが起動され、ダストシュートにウィルが待機していなかったとなれば、俺の危惧している可能性――アルバート達が拘束されているか、寝返っているパターンが濃厚となってくる。


「でしたら『ノア』の下部から侵入しましょう。ローダーも侵入可能なように大きく作られた搬入口があります」

「そうか、助かる」


 細かくブーストを刻んで姿勢を整えた後、自由落下に任せて「ノア」の下部へと回り込む。


 中央街は「ノア」の修理ドックを兼ねている。


 だから、本体は支柱によって支えられ、それらを取り囲むように構造体が続いている。今見えている船首から下に潜り込むと、丁度船底を仰ぎ見ることができるようになるはずだ。


「位置を視覚センサーに反映させますね」

「たすかる」


 ELFはZETと親和性が高いようで、ジャンヌは軽く手をかざすだけで視覚センサーの中にポイントを打ち込むことができていた。


――開いていないようですが。

「これから開きます――ELF識別名『ジャンヌ』より命令『ノア』下部ハッチ開放」


 ジャンヌがそう呟くと、ポインターで示された位置が四角く切れ込みが入って、ゆっくりと開き始める。目測でも一〇メートル四方はありそうな侵入口である。これならばDAZEごと乗り入れることもできそうだ。


 そう思って俺はブースターを噴かせつつ、その搬入口へと近づいていく。


――搬入口内より熱源反応。バイル、回避してください!

「っ!?」


 センサーで確認するよりも早く俺は横方向へ回避機動を行なっていた。背面の応急修理したブースターから異音がしたが、次の瞬間にはそんな事は気にならなくなっていた。


 ロケットランチャー、誘導しない代わりに弾速を高めた砲弾が、俺のすぐそばを掠めていき、そして起爆したのだ。


「ぐっ!!」


 爆音と閃光で視覚センサーが不具合を起こし、それが回復すると、完全に開いた搬入口に赤黒いDAZEがロケットランチャーを担いで立っていた。


『待っていたぞ、終の使者』


 広域回線からそんな声が響いた。


「バイルさん。返答しますか?」

「いや、よく分からないが相手は敵だって決まってるんだ。会話する必要はない」


 俺は通信の返答代わりにアサルトライフルのトリガーを絞った状態で突撃する。


『くくく、話に応じる気はないと! そういう事だな!?』


 相手は広域回線を開いたまま、こちらへと再びロケットランチャーを打ち込んで、戦闘機動を開始する。


 相手のDAZEは当然ながら最新型、そして故障個所などもあるはずがない。旧式な上、無理矢理動かしているこちらとは雲泥の差があった。


『なら、勝手に名乗らせてもらうぞ! 私はジョー・キリヤ! 元老院議員カイ・キリヤの孫にあたる。試させてもらうぞ、お前が「おわり」をもたらすのにふさわしい存在か!』


 訳の分からないことを言っているが、それでも相手の実力は確かだった。


 回避の難しい広範囲短射程のショットガンに、弾速の早いロケットランチャー。そして片腕には物理盾を装備しており、こちらのアサルトライフルとミサイルは相性が悪かった。


 高誘導が売りのミサイルだが、命中したところで盾に防がれては意味がなく、牽制目的のアサルトライフルでは決定力に欠ける。それに加えて背部ブースターの不調がある自分は、どうやっても相手の有利をひっくり返すことができなかった。


「っ……」


 攻撃を凌ぐうち、背部の異音も大きくなる。治安委員会の制圧部隊も近づいているであろう今、そこまで長い時間を戦闘にはあてられない。


――バイル?


 仕方ない。一か八か、俺は残る一つの武装を起動した。

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