第35話 侵入成功

 巨大な電子制御の門、その内側にはローダーと呼ばれるDAZEが複数常駐している。彼らは中央街のいたるところから廃品を集め、大型のDAZEがそれらを門が開いた時に外へ押し出しようになっていた。


 門の名前は通称ダストシュートと呼ばれ、不定期に開かれるようになっていた。


「交代だ」


 ダストシュートの管制施設で、制服を着た男が、淡々と告げる。


「ん、もうそんな時間か」


 もう一人の、この部屋に元から居た男は大きく伸びをしながらそう答える。


 管制施設からは、窓越しにローダーの動く姿が見えるようになっており、集積されてくるガラクタたちを一か所に集める姿は、なんとも規則的で、眠気を誘うものだった。


「なあ、もうちょいでダストシュート開くだろ? それだけ見てから交代でもいいか?」

「見てる分には問題ないな」


 会話を続けながら、片方は立ち上がりもう一人に席を譲る。


「しかし物好きだな」

「いやーなんつうか、溜まったゴミをダストシュートから一気に放出するのって、一種のすっきり感あるじゃん? ここまで溜まったら見ておかないとな―って」

「それはいいが、本分は忘れていないだろうな?」


 通常、ダストシュートが開かれる時間は不定期の上、機密事項である。


 何故なら、定期的に開け閉めをすると、そのタイミングを狙って端街から中央街へ戻ろうとする人間が後を絶たず。不必要に人員を割くことになるからで、端街へ情報を予測させないことで、最小限の人員で何とか出来ているのだった。


「分かってるって、でもダストシュートは高層にあるし、最悪でもいくつか自動機銃が入り口を狙ってる。時間も時間だし、真面目にやってられないのも分かってくれよな」


 椅子に座った男は、休憩に入った男の話を聞いて、溜息を吐く。さっさとダストシュートを開けてこいつを部屋から追い出そう。そう考えながら、ローダーの操縦者たちに通信を飛ばす。


「少し早いがダストシュートを開ける。各自廃棄に動いてくれ」

『了解』


 帰ってきた声はまばらだったが、ローダー全員が門の方へ歩き始めたので、男はそれを確認してから門を開くボタンを押した。


 重々しく、ゆっくりとロックが外され、門が上下に開いていく。外の大気組成は酸素がかなり薄いので、あまり長い時間開いておくと入り口周辺の操縦者たちは酸欠になるかもしれない。それに、今日は一年に一回歩かないかの雨が降っている。作業が終わったらすぐに閉じよう。そんな事をうっすらと考えていると、門の入り口で何かが爆ぜた。


「なんだ……?」


 管制室から二人が目を凝らして入り口を凝視する。するとそこではキラキラと光る何かが舞っていた。


 それは男の目には廃品が門の開閉に巻き込まれて弾けたように見えていたが、続いて入ってくる雑音まみれの通信に、事態を把握する。


『ザザッ――……室! チャ……侵…者――』

「何だと!?」


 椅子に腰かけていた男は思わず身を乗り出す。視線の先にはチャフグレネードで行動不能に陥っているローダー数機と、外から飛び込んできた黒い影――旧式の戦闘用DAZEが見えていた。


「っ……おいっ! 自動機銃は!?」


 先程まで寝ぼけ眼を擦っていた男にするどい声を飛ばす。彼は慌てた様子で計器を確認するが、そこにあったのは「センサー障害」の文字が浮かんだ機銃管制システムのエラー画面だった。


「治安委員会に連絡しろ! 俺たちは――」


 そこまで言って、言葉に詰まる。男の座った席からは、侵入者がよく見える。そしてなぜか、侵入者はDAZEに乗っているというのに、チャフの影響を全く受けていなかった。


 何故? という疑問を浮かべる前に、彼は反射的にダストシュートの門を閉めていた。それをすることで侵入者を排除できなくなってしまうとしても、彼の頭にはそんな事を考える余裕は微塵もなかった。


 そして、次の瞬間には飛翔体――噴進弾頭の丸い先端がこちらへ向けて大きくなっていた。



――



――管制システム、沈黙しました。

「よし、このまま『ノア』本体へ向かう」


 中央街の状況は、未だにはっきりと把握できていない。


 なので、俺は最悪を想定して動くことにする。最悪を想定している状況ならば、事態は好転しかしないからだ。


 ウィルとアルバートは宗旨替え、あるいは拘束されて俺の存在がバレている。そう考えていたが、どうやらそこまで状況は最悪ではないらしい。


「今はどういった状況なのでしょうか」

「少なくとも、俺たちは不意打ちに成功したってところか」


 もし俺がここに来ることがバレていれば、ダストシュートの入り口は戦闘用DAZEが並んでいたはずだ。あるいは、ダストシュートの門が開かない可能性もあった。


 ローダーの脇通り過ぎながら、自動機銃の方へ大口径のアサルトライフルを打ち込む。火器管制が壊れているうえにチャフを撒いた関係上、エイムアシストが機能しない。なので今は完全にケイの力で火器を操っていた。


「……ところで」

「?」


 俺は操縦席に座っている。そしてジャンヌもつれていかなければならない関係上、彼女もコックピットに乗っている。


「近くないか?」


 まあ、元々そこまで大型の物ではないので、二人乗りには無理があるのだが、ジャンヌはべったりと俺に抱き付いていた。


「いえ、これがベストです」

「……そうか」


 ベストらしい。まあ操縦はほとんどケイを通じて神経接続しているような物なので、動きにくかったり操縦しにくいという事は無いのだが。


――バイル。心拍数に異常が見られますが……

「問題ない。さっさと行こう」

「バイルさん。しかし――」

「いいから」


 これ以上余計な事を騒がれない為にも、俺はゴミ捨てラインを逆走して中央街内部へと入り込んでいった。

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