第32話 中央街へ

 私が動揺を隠せないでいると、機関室へ小銃を構えた警備員たちが押し入ってくる。彼らは銃口を向け、私とアルバート氏を取り囲んだ。彼らは両手をあげるようにジェスチャーをしたので、私はそれに従って手のひらを周囲に見せながらゆっくりと両手を挙げた。


「っ……」

「アルバート君、どうかしたか? 秘書共々顔色が悪いようだが」


 私とアルバート氏が両手を後頭部で組んだところで、カイ議員が勝ち誇ったように声を掛けてきた。その表情は勝ち誇っており、メインジェネレータの始動に合わせて明るくなった照明によって、威圧感を放っていた。


「なるほど、情報が漏れていたか」


 動揺し、歯噛みする私に対して、アルバート氏は冷静だった。その表情には動揺が透けていたが、あくまで言葉は必要以上の事を話さない。


「……」


 ならば私も「何故」「何かの間違いだ」と騒ぐことはするべきではない。アルバート氏が堂々としている以上、私が取り乱して更に旗色を悪くするわけにはいかないのだ。


「ほう、取り乱さないのだな。それとも、観念したか?」

「いいえ、自信があるだけですよ。冤罪のね」

「カ、カイ議員……アルバート議員は何をしたのだね?」


 冷ややかな言葉の刃を交わすアルバート氏とカイ議員だったが。そんな二人のあいだに一人の元老院議員が口を挟む。


 カイ議員は、そんな彼の質問を受けて、懐から音声レコーダーを取り出す。それは幾分か時代遅れの代物であったが、高い信頼性があり、証拠として十分なデータとなっている。


「これを聞けば分かるだろう」


 彼はレコーダーを再生する。そこに記録されていたのは、私達が先程話していた内容だった。


『彼の仕掛けは本当に作用するのでしょうか』

『さてな……少なくとも今の状況は彼の想定通りのようだが』

『そもそもELFは生体端末だ。そこに仕掛けをするとすれば、かなりの技術が必要になるはずだ。恐らくその時が来なければ正体の想像もできないだろう』

『はい……』


「まあ、話を聞くかぎりELFに何か細工を施したようだが、無駄だったようだな……本星帰還計画に不可欠なELFに何かを仕掛けることは、中央街と元老院への背任と見ていいだろう――端街の『使い捨て』から何かを吹き込まれたか?」


「まさかアルバート議員が……」

「いやしかし、言われてみれば……」

「『使い捨て』との内通など馬鹿な事を……」


 周囲の人間に動揺が走る。ざわついた空気の中、アルバート氏だけはいつもと変わらない様子でじっと相手の出方を窺っている。


 どうやって私室に盗聴器を仕掛けた? 盗聴器のチェックは二日前にやったばかりで、侵入者の形跡もなかった。


「ふっ、余計なことは喋らない。ということか」


 拘束具が両手に嵌められる感触を不快に思いつつも、私は何もできなかった。


「なら私も余計なことは喋るまい。詳しい弁明と聴取は元老院の弾劾裁判にて行うとしよう」



――



「あ――」


 窓から外の様子を見ていたジャンヌが、何かに気付いたように声をあげる。


――ジャンヌさん。どうかしましたか?


「『ノア』のメインジェネレータが起動しました」


「何だとっ!?」


 俺はソファから飛び起きて、ジャンヌの頭越しに窓の外へ視線を動かす。しかしそこには灰色の曇った景色しか見えず、どうやっても「ノア」が動いているかどうかを見ることはできなかった。


――バイル、落ち着いてください。ジャンヌさん、本当ですか?

「はい、ELFはメインジェネレータからの信号を受け取る事ができますので、今起動信号が届きました」


 どういう事だ……俺のトラップが不発だったという事か? いや、確かに実証実験は行わなかったが、生体認証キーはデリケートだ。少しの違いで合致しなくなるはずだが。


「これでこの星も少しは住みやすくなるでしょうか?」

「いや――悪いが、そんな事はない」


 元老院は間違いなく、本星への帰還を目指すだろう。そして飛び立った後、端街は干上がって滅びを迎える。


――どうしましょうか?


 俺は自分の脳内で考えを巡らせる。


 ELFへの仕掛けはもうないものとして考えたほうが良いだろう。その上メインジェネレータが動いているとすれば、ウィルとアルバートの二人も、それは理解しているはずだ。


 ……最悪の場合は、既にこちらの手の内がバレている場合だ。中央街にいる二人が、宗旨替えをしている可能性はゼロじゃない。その場合は今夜のELF受け渡しも、罠である可能性が出てくる。


「バイルさん……」


 じっと思考の海に沈みかけていたのを、ジャンヌが袖を引っ張ることで引き留めてくれる。


 俺は何とか深呼吸をして、思考を落ち着ける。起きてしまったことはどうしようもない。問題は、これからどうするかだ。


 何にしても、状況が分からない。そして耳と目の役割をする二人があてにならない。これでは、行動の指針も立てられない。


「ケイ、動くぞ」

――え、あっ、はい!


 俺は一言だけそう言って、外に出かける準備を始める。


「バイルさん、何処へ行くんですか?」


 慌てて外出用の布を被ったジャンヌが、俺に問いかける。その言葉に俺は端的に答えた。


「準備だ。今夜、中央街へ潜入する」



――読者の方へおねがい


 お読みいただきありがとうございました。この作品はカクヨムコンに参加しています。カクヨムコンは異世界ファンタジーや現代ファンタジー、異世界恋愛が強い状況で、その中で戦っていくためには皆様の助力が必要不可欠です。


 もしよろしければ、作品ページから+☆☆☆の部分の+を押して★★★にしていただけるとありがたいです。


 では、よろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る