まじで、マジで、

@rabbit090

第1話

 ちょっとばかり間違っていても気づかない、俺はいつも冷めている。

 いや、覚めている、といった方が正しいのだろうか。

 至って冷静であることは分かっているけれど、元々の気質であるのだから仕方が無いことだと思う。

 親も、そんな俺を見て諦めていた。

 人生っていうか、何か、いろどりがあるものを期待していたらしくて、子どもとしてもそれができずに、大人になった今思えば随分楽しくない子育てだっただろうなあ、と思う。

 もう、申し訳なさすら感じる。

 けど、俺は全く、自分に関して悪いと思ったことは無い。

 だって、自分なんて変えられないんだぜ?

 苦労するだけ無駄ってもんよ。

 「来たよ。」

 「おかえり。」

 「おかえりは無いだろ?俺はまだお前と、暮らしているわけじゃないんだ。」

 「うるさいなあ、細かいことに口出さないで。まあ、早く入ってよ。」

 「分かった。」

 俺は、今、みき子と一緒にこの家にいる。

 別に、暮らしているというわけではないが、バイト先から近いので何となく通っている。

 しかしその内に、お互い”ラク”であるということに気付いてしまい、それ其れ本格的に一緒に住もうか、という話をしている。

 「なあ、みき子は結婚しないの?」

 「はあ?何なの。アタシがこの前こっぴどく、先輩に振られたの知ってるでしょ?」

 「まあ、話だけは。」

 「もう。」

 みき子とは、バイト先で知り合った。

 みき子は大学生だが、お金に困っていた。なぜ、困っているのかというと、アイツは根っからのギャンブル狂なのだ。

 とにかく賭けまくって、それで、勝つんだよなあ。

 俺は、笑ってしまう。

 顔は可愛く、大人しいのにその裏に潜んでいる自堕落な奴の正体を、俺だけが知っているということに愉悦を感じている。

 そして、

 「吾郎はさ、変わらなくていいんだから。」

 「ああ。」

 俺は、アイツと暮らし始めてから、何度もそう言われている。

 なぜそういうのかは聞いていないが、感じるところがあるのか、と思う。

 けど、俺にはそういったものが一切分からない。

 「じゃあ、寝るから。おやすみ。」

 「おやすみ。」

 冷徹だと、言われていた。

 それは多分、ずっと分かっているようでわかっていないことだった。

 俺は、俺のままだった。

 楽しいことだってもちろんあるけれど、それを表現するには足りない何かが、俺の正体なのだと思う。

 いつも欠落している、しかし理由が分からない、これが俺の正体なのだろう。

 俺は、まともになりたかった。が、なれないということも分かっていたので、ひっそりと暮らしていこうと心に決めていた。

 そして、目下の楽しみは、

 「ああ、吾郎。」

 「お前、また来たのかよ。」

 呆れてしまうけれど、俺たちは競馬友達だった。そして、賭け事全ての友人にまでなってしまった。

 気が合う人間、なんていなかった。

 けど、今俺にはみき子という存在がいる。

 ならいいか、と、いつも通りに電気を消して、寝てしまった。


 数十年後の話

 「みき子、みき子。」

 「あ、吾郎。」

 俺は幸せだった。

 そして、みき子も、そうなのだろう。

 ああ、俺、人生で初めて泣いたのかもしれない。多分、俺の中には何か間違いがあって、そのエラーのせいで、感じることのなかった悲しみが、頬から滴り落ちている。

 

 

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