第24話 どんなコンテスト?

 ホリツォント夫妻が横並びに、モカラの向かいの席にラウネン、アスターの向かいの席にエリン、そしてエリンの隣のお誕生日席にメリアが座って食事を摂った。

 天井にいくつかぶら下がったランタンに照らされる食卓。そこには湯気の立ち上るスープ、それから魚介をふんだんに使った海鮮パスタが並んでいた。それを美味しそうに喜んで食べるホリツォント夫妻を笑顔で見ていたメリアは、「あの」とラウネンに話しかけた。



「さっきのハーデンベルギア海上絵画コンテストのお話、是非聞かせてほしいです」


「ああ、そうだったな。忘れてたよ」



ラウネンはフォークを置いて、一口酒を飲んでから話し出した。



「ハーデンベルギア海上絵画コンテストっていうのは、海上に絵を描いてそれを観光客が品評して優勝者を決めるっていうコンテストだ」



エリンも興味を持ったようで、ラウネンの方へ顔を向けた。



「海上に絵の具で絵を描くのは無理ですよね。何を使って絵を描くんですか?」


「おっエリン、いい質問だ」



するとラウネンは一度席を立ち、居間の隅にあるアンティーク調のキャビネットの引き出しから何枚かのポストカードを取り出して戻って来た。



「さっきも話した通り、ロート港は紅葉した葉が沢山ある。それを使って海上に絵を描くんだ」


「凄い…」



海上に浮かぶのは色も形も少しずつ異なる葉で、それらは一つの絵になっていた。

 するとアスターはポストカードを覗き込むエリンとメリアに向かって「全てラウネンの作品だよ」と微笑んだ。



「ラウネンは毎年このコンテストに参加していてね。参加した年からずっと優勝しているんだ」


「そうなんですかっ?。毎年継続していることも凄いですし、多くの人から一番だと評価されているのも凄いです」


「俺としちゃ賞とかはどうでもいいんだけどな。こうやって優勝者の描いた絵がポストカードになるのは嬉しいな」



ポストカードを手に取って海上に浮かぶ絵を食い入るように見ていたエリンは、ラウネンを見上げる。



「この絵はコンテストが終わったら…?」


「当然、ただの海上に浮いてる葉になっちまう。だからこうして記録を残す。観光客は優勝者以外の作品もよく写真に納めてるのをちょくちょく見かけるぞ」


「私も実際に見てみたいです」



メリアが呟くと、アスターが微笑んでラウネンに提案した。



「ロート港から列車に乗るのに案内が必要だろう。ラウネンに案内してもらいながら、コンテストの様子も見てきたらどうかな?」


「いいわね。それは名案だわ、あなた」



モカラも両手を合わせてラウネンを見やった。



「いいぞ、連れてってやる。今の季節のロート港は観光客だらけだから、家出少女の情報が万が一港にまで伝わっててもそう簡単には見つからねえと思うぜ」


「まあ嬉しい、ありがとうございます」



メリアは両手を胸の前で合わせ、頬を紅潮させていた。

 海上絵画コンテストの話で盛り上がっていると、モカラが出来上がったばかりのパイを運んで来たので話題は必然と絵からパイへと移り変わった。

 モカラがパイを切り分ける様子に釘付けになっているメリア。しかしエリンはその間も、ポストカードに視線を落としていた。

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