第22話 商業船の中

 メリアの着ているニットはかつて服屋の商業船でアスターに買ってもらったものなんだという話や、服にまつわる沢山のことを話し聞かせてくれているモカラに、ラウネンが呆れ顔で「早く案内してやれよ」と声をかけたことで船内案内が始まった。



「うっかりしていたわ。ラウネンに言われなきゃずっと思い出話をしていたところよ。ごめんなさいね、歳をとると饒舌になるものなのかしら」


「いえ謝らないでください。ずっと聞いていたかったくらいです」



エリンの言葉に嬉しそうにするモカラがまず案内してくれたのは、キッチン兼居間だった。テーブルや椅子は床に固定されていて、キッチンからは居間を見渡すことが出来た。



「ここではごはんを食べたり、料理をしたりするの。二人は料理するのかしら?」


「はい。家事全般ならなんでも」


「あら、なら自由に使ってくれていいからね。マグカップやグラスはここの戸棚、お皿やカトラリーはこの引き出しの中。開けたら必ずしめてロックをしてね。じゃないと船が揺れた時に全部出てガッシャーン……なんてこともあるから」



実際にやってしまったことがあるようだ。モカラさんは可愛らしく肩を竦めると、食材を保管している場所や水周りも案内してくれた。

次に案内してくれたのは、ラウネンの部屋とモカラさんたちの寝室を通り抜けた先、廊下を抜けたところにある甲板だった。これまで乗って来た大型客船と比べれば狭い甲板だったが、中型船である商業船の甲板はより海に近くて欄干の傍に寄れば時々飛沫が頬を濡らした。



「ここで洗濯物を干すの。帆と欄干に綱を張ってそこにね」



再び廊下を抜けて居間を通り、反対側の船首側に向かうとそこにも先程の甲板ほどのスペースがあった。しかしそこはどこもかしこも花で埋め尽くされていた。



「ここは見たまま、花屋よ。潮風に当たるとよくないから、海上市場に停泊している時以外は居間に引っ込めるんだけど、あなたたちが来て嬉しくて忘れていたわ。これで案内終了よ、質問はある?」



質問はないと首を横に振ったメリアが「花を居間に運ぶのをお手伝いさせてください」と申し出て、エリンもそれにうんうんと頷いた。



「いいの?。じゃあ黒いバケツに入ったお花全部居間に運んでもらえるかしら」


「はい……って、このダリアの入ったバケツ重いっ……」



袖を捲りバケツを持ち上げたエリンは、両手をプルプルと震わせながら居間に向かう。



「エリン大丈夫?」


「大丈夫じゃない、メリアそこの扉開けて。早く」


「う、うん。わかったわ」



 少女二人がせっせと花の入ったバケツを居間に運ぶ様子を、モカラは微笑ましそうに見守った。

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