第11話 メリアの誕生日
メリアの誕生日には、彼女の屋敷でそれはそれは大きなパーティーが開かれた。この町では婚前で年頃の娘の誕生日を盛大に祝う慣習がある。それは沢山の年頃の男性をパーティーに呼ぶことで、見合いをさせる手間を省くためだ。
メリアは件の服屋の店主から前日に贈られた素晴らしいカフェラテ色のドレスに身を包んでいた。薄茶の落ち着いた色味でありながら、彼女の愛らしい笑顔を引き立たせるように白いレースが縫い付けられている。何層にもフリルが重なるドレスにはボリュームがあったが、細身の彼女はそれを品よく着こなしていた。メリアの胸元には、銀杏色に輝く宝石が煌めいている。
朝日が差し込む会場にメリアが現れ謝辞の挨拶を述べ終えると、すぐさま青年たちが一曲願おうと集まってきた。メリアはその誘いを断るのは失礼に当たると思い、誘いに乗って何曲も躍ったが内心では気もそぞろだった。なにせ、今日は一世一代の大勝負の日。そう、イベリスに告白するのだから。
女性から男性に告白するなどみっともないと思われるのではないかという考えが頭を過ったが、そんなことを言っていたのではイベリスを他の女性に取られてしまう。ここは恥も承知の上で自分から想いを伝えるしかない。
しかし、メリアは自分が思っている以上に可愛らしく美しい娘。彼女がイベリスと結ばれたいと願っているように、彼女と結ばれたいと密かに彼女の夫の座を狙っている青年たちも少なくない。そのため次々と青年に声をかけられ、なかなかイベリスの元へ行くことが出来ない。
まだ時間はあるわ。焦らないの、私。
自分に言い聞かせ、メリアはワルツを踊り続けた。
メリアが踊っているのを横目に、エリンは先日メリアの部屋で思いついたあることを実行に移した。
「本日はメリアがおめでとうございます」
「あらエリンジウムさん、ありがとう」
エリンが声をかけたのは、アザレアだった。エリンの計画に、彼女がいると邪魔なのだ。ここは一度、彼女自ら会場から姿を消してもらおう。
「あの、兄からアザレアさんへの伝言を預かっています」
「イベリス君が?。な、何かしら」
「あなたの部屋で待っていて、と」
明らかに動揺するアザレアを無視して、何も気がついていない風を装ってエリンは微笑みつつ話を続けた。
「メリアにお二人からサプライズをするおつもりなのですか?。せっかくなら私も混ぜてくださればよかったのに」
「あ、ええ、実は…そうなの」
目を泳がせる彼女に兄さんが来るまで自室に戻っているよう伝える。
「もしメリアや招待客の方にあなたの居場所を尋ねられたら、具合が悪いと伝えておきますから。ね?」
「わかったわ。ありがとう」
そうして自室に去って行く彼女を見届ける。流石に娘の誕生日くらいはイベリスからの誘いを断る可能性を考えて、もう一つこの場から彼女を遠ざける案を考えていたが必要なかったようだ。
「………本当に酷い母親」
誰にも聞こえない声でそう呟いてから、エリンは次の行動に移る。今は誰もいないメリアの自室へ向かい、彼女が前に母親とお揃いで購入したものだと自慢していたドレスをクローゼットから引っ張り出して身につけた。
アザレアの変装を済ませ、イベリスを探す。庭で都合よく一人で薔薇を愛でていたイベリスの元へ早足で歩み寄る。今日の為に、アザレアの声を完全に再現できるよう練習してきた。エリンはアザレアの纏う控えめな雰囲気を必死に演じながらイベリスに話しかける。
「イベリス」
振り返った兄の表情には、花を慈しむような優しさと獲物を捕らえる獣のような鋭さがない混ぜになっていた。
「アザレアさん、どうかした?」
「話があるの、ちょっと歩かない?」
「それがあなたの望みなら」
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