第9話 ちょっと早めの誕生日プレゼント

 まだ秋になったばかりだと言うのに、店内にはもう冬だと言わんばかりに冬季へ向けた暖かそうな服が売られている。トルソーには鹿の毛のような艶のあるコートや、ボルドーカラーのセーターなどが着せられており、店のあちこちに服を着せられたトルソーが点在していた。

 この店の商品は全て店主がひとつひとつ丁寧に仕上げた一点ものだ。そのため当然どれも値が張るのだが、この町の女性は自分だけがこの店で服を買わなかったことで「この店の服を買えない財力の家の娘」と馬鹿にされたくないという思いから無理をしてでもこの店の服を購入する。プライドの高い女性たちに人気の店だが、メリアがこの店で服を買うのには別の理由があった。店主であるおばあさんに小さい頃から可愛がってもらっていた彼女は、おばあさんが自慢する服に自分もいつか袖を通してみたいという気持ちから、この店の服を買うことを決めていた。

 暖色系の服が好きなメリアにとって、暖色系の色味を使った服の多いこの時期は服を選ぶのが特に楽しい時間であった。母親や女友達と一緒の時や一人で買い物に来ている時にはたっぷりと時間をかけてどの服を買うか吟味するが、今日一緒に買い物に来ているのはイベリスだ。いくら彼が気にしなくていいと言ってくれているからといって、選ぶのにあまり時間をかけてしまっては申し訳ない。そう思った矢先、イベリスが明るい葡萄色の可愛らしい冬用のドレスをメリアに当てがった。



「これメリアに凄く似合うよ。とっても魅力的に見える」



前から憧れていた、好きな人に服を選んでもらうという夢が思いがけず叶って、服を選んでいる間メリアの笑顔は絶えなかった。

 そんなメリアの気持ちに、人の心模様に機敏なイベリスが気づいていないわけがなかった。しかし、イベリスにとって彼女は幼い頃から付き合いのある友人でしかない。心地よい今のこの関係性を壊さないために、イベリスはあえて彼女の気持ちに鈍感なふりをしていた。

 しかしイベリスは罪な男だ。好きな女性でなくとも、どんな女性に対してもその胸を躍らせてしまうような歯の浮く一言を無意識に言ってのけてしまうのだから。そのおかげで、イベリスと結ばれたいと願っている年頃の娘は彼の思っている以上に多い。

 店で冬に必要になるものを一通り買った後、ドアベルの余韻が残る店先でイベリスは小さな箱をメリアに差し出した。



「ちょっと早いけど、誕生日プレゼント」


「まあ嬉しいっ、ありがとう。…開けてもいい?」



箱を開けて中身を見たメリアは驚いた表情でイベリスを見上げた。



「これって…」



箱に入っていたのは、先程メリアが店のショウウィンドウ越しに釘付けになっていたネックレスだった。

 友人であるメリアの誕生日を祝う気持ちは勿論あった。しかしこの値の張るプレゼントには、彼女の母親と関係を持っていることへの贖罪の気持ちも忍ばせていた。



「大切にする」

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