夜への旅路
朝日がカーテンの隙間から入ってくる。体内時計が自動的に身体を覚醒させる。
すっかり見慣れたマンションの天井が視界に入る。グダグダせずにベッドから身を起こす。僕は寝起き良いタイプなんだよね。
僕が怪人になってから数年が経過した。『終末時計』の幹部陣がほとんど壊滅状態になったが、僕たちの復讐は終わっていなかった。世界崩壊級の歌姫と呼ばれて世間でもてはやされている新藤千里もまだくたばっていないし。
本日より新藤千里ファイナルライブが帝都ドームでスタートする。『終末時計』が画策した決定的事態の一つだ。これが無事開催された場合、日本は終焉を迎えるらしい。これを阻止するという最後の使命が残っている。
「行くのか?」
警視庁公安部処刑隊大隊長の大神さんが、僕に尋ねる。
パジャマ姿の大神さんがベッドの端に座っていた。大神さんは爺婆のように朝が早い。見た目は二十代くらいのお姉さんだけど二千歳近い年齢だし。
僕は大神さんに拾われて警察業務代行業者の一人としてこれまで暮らしてきた。 具体的には処刑隊本隊を突っ込ませるわけにはいかないような怪人や怪異、あと邪悪な殺人鬼を代わりに殺してお金を貰っていた。
「仕事じゃないんですけど殺さないといけないので」
リンフォンに封じられた彼らの記憶によると新藤千里が『終末時計』の
「……新藤千里を討ち取り、無事帰って来ることができたなら処刑隊の籍を用意してやる」
生きて帰って来れない可能性が高い。処刑隊も『終末時計』本社襲撃でほとんど殉職するか再起不能になって開店休業状態だし。国家権力に新藤千里のライブを止める力は無い。自衛隊の治安出動がまだあるけど、総理大臣は一向に首を縦に降らないので現実的ではない。
「別に警察になりたいわけでもないから遠慮しときますよ」
黒い革ジャンを羽織り、同じく黒いジーンズを履く。そして赤いマフラーを首に巻く。赤いマフラーは正義の味方の証らしい。僕は自分をそんな上等なものと認識していないが。
おっと。これを忘れてはいけないな。『妖刀村正』を腰に差しておかないとね。武器は装備しないと使えない。
思えば何年も大神さんの部屋に居候してしまった。無事に帰って来れたらこれまでの家賃を払わないといけないな。
大神さんの部屋から出て、中古のバイクに乗る。
自分の足で走る方が早いけれど、無駄に体力を使うことはできない。
これから新藤千里と決着をつけるからね。
ライブ会場への道には『終末時計』残存勢力の怪人ジャガーマンが大勢配備されていた。ジャガーマンは二足歩行のジャガーみたいな怪人だ。怪人としては比較的量産が効くらしくけっこう見かける。南米のカルテルから原材料が簡単に輸入できるし、施術も容易らしい。
そしてそいつらは自動小銃で武装していた。自動小銃で武装させなきゃ使い物にならないレベルの雑兵ということだ。先の本社殲滅戦で練度の高いジャガーマンは品切れになったように見える。銃を使うより近接戦闘した方が良いでしょ。何の為の素早さだよ。
「優先排除対象、インフェルノ零号を確認。これより攻撃を開始する」
ジャガーマンどもが自動小銃を発砲してくる。バイクを全力で飛ばしているので当然当たらない。エイム力がクソ過ぎる。だけど連中の足はバイクくらい当然のように追いつける。殺しておこう。
すれ違い様に人差し指を向けてビームで焼き払う。だいたい一万度のビームが直撃して耐えられる奴はそういない。ジャガーマンは次々に溶けていく。
誤射すると大変なことになるから街中で使う技じゃないが、急いでいるんだ。
帝都ドームまでの道にはジャガーマンがうじゃうじゃいたけれど、帝都ドームの入り口にはほんの六体の怪人しか居なかった。
あの特徴的な黒い見た目は。
魚のような頭部、首筋の赤いエラ、胸部を覆う肋骨状の外骨格、鳥の
僕と同じリンフォン融合型怪人インフェルノシリーズか。
そして全員が帯刀している。銃を使うより斬った方が早いから当然だよね。
「我らインフェルノシリーズ六体、
インフェルノシリーズが一斉に抜刀する。『倍速』を使わなくても動きのバラつきが見える。統一規格の怪人でも個人毎の性能差が出るんだよね。
「『倍速』」
最初から僕のリンフォンの中に封じられた幾人かの人間が居て、彼らの記憶や能力を僕は共有することができる。『倍速』は剣鬼と呼ばれた男の能力だ。
その名の通り、倍速で動けるというだけなんだけど、なかなか馬鹿にできない。
音速で動ける僕が十倍で動くと、並みの怪人相手じゃ一方的処刑になる。
米帝から密輸した
神速の抜刀でまず一人の首を飛ばす。飛んだ首を蹴飛ばして二人目の頭部を砕く。
三人目と四人目はすれ違い様に八つ裂きにする。五人目を踏み砕きつつ、上に飛ぶ。六人目を空から襲う。頭頂部から刀で串刺しにした。
ここまでジャスト一秒。
刀は抜いたままドームに突っ込む。
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