【番外編】嘘読書感想文(ない作品の感想)

あの子が言ったから

 引退してしまったアイドルについての回想。

 というあらすじにすると読む人を選ぶかもしれないが、年齢も境遇も異なる数人の些細だったり重大だったりする人生の一コマ、と読めばとても普遍的な話だった。


 登場するのは六人の男女。

 就活に行き詰まる大学生、友人関係に悩む女子高生、夜勤バイトのフリーター、息子の進学を控える会社員、残業続きの三十代女性、昨日部活を辞めた男子中学生。


 実際、彼ら全員がファンということではなく、引退したそのアイドルが直接的に関わる場合もあれば、ごくごく間接的な場合もある。

 彼らはそれぞれに行動を起こしたり新たな局面を迎える。希望に満ちた一歩もあるが、不穏な終わり方も。その引き金にアイドルがあったり、アイドルにまつわる何かが知らず知らずのうちに関わっていたり。

 ある意味ファムファタールものとしても読むことができる。


 アイドル本人が直接登場しないので、彼女の説明はすべて誰かの目を通したものや誰かの思い出話、作中内のメディア越しになる。最後まで実体をつかめないというか、存在感はあるのに実在している感はないというか、蜃気楼を追いかけているような、アイドルってそういうものだよなと思う。

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