掃除婦のための手引き書/ルシア・ベルリン

 掃除婦という低所得の職業に従事する女性がたくましく世を渡る話、みたいなのをタイトルで想像した自分の発想がしょぼすぎて悲しい。全然そういうのじゃない。



 自分に足りていないのは現代の海外文学だ。映画で見たあの場面、あのアイテム、あの一幕が満載で、自分の好きなはずの世界に改めて出会い直したと思った。


「一九六〇年代、ベンのところによくジェシーが遊びに来た。二人ともまだうんと若かった。長髪、ストロボライト、大麻にアシッド。ジェシーはすでに学校をドロップアウトしていた。」(p160)


 そして翻訳も上手すぎる。

「白人の前でわざと黒人ぽく話すのだ。『ヨ、オレらマジでリッチだから両方(ボフ)のクツに札入れてるぜ、ブロ』」(p283)


 最初はそんなイメージで読んでいた。

 次第ににそれだけではなく、書かれていること、それを見る作者の視線の解像度に圧倒されてきた。

 あらゆる場面が生々しくて荒々しく、そして息をのむほど美しい。

 世界はここまで見逃されずに描かれるのかと思った。

「刑務所と女子刑務所、自動車修理工場、それに温室。人の姿がなく、ほかに家もないから、霧ごしに光の筋がさしこむ太古の草原に突然迷い込んだみたいな気分になる。」(p275)


 最後まで読んでから、改めて表題作「掃除婦のための手引書」を読んで、一番完成されていると思った。どうしてこんなに愛を感じるのだろう。愛する人をこんなふうに思い返したい。こんなふうに書きたい。


 そして原書手に入れました。頑張って読みます。

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