グリーン・ブック
口は上手く粗野で無教養だが根は善良。
知性と品性を身につけた孤独な成功者。
というわかりやすいタッグ。ただしこれまでのパターンとは白人黒人の取り合わせが逆。という構図。
「公開当時でもこの組み合わせが違和感のあるものだった」と語られる時代が早く来ますように。
様々な差別がある。わかりやすい悪意による差別。偏見による差別、慣習による差別、社会的な差別、他の顧客のための差別。
トニーの言った「俺の方が黒人を知っている」という言葉がキツかったな。現代社会で特に蔓延っているのは、そういう想像力のなさによる差別だと思う。
慎重に作られていると思った。安易に美談にならないようにと。差別は思いやりとか優しさとか友愛があれば無くなってくれるものではなく、「正しい理解」が必要なのだと、あらゆる場面で意識されていると思った。
音楽が人の心を動かして~みたいなものでもないのも良かった。
二人のどちらも「いい人なんだけど」という部分があり、超えられない壁の存在にもどかしさを感じさせるのが見事。
彼らにはそれぞれ世を渡るための苦労があり、そこで身につけてきたものがある。それは反発というよりも世界が違うあまり橋をかけることができない。そんな話の通じなさ。
白人の救世主、という批判はあるようだが、ではこれ以外にどうしろと? と思う。
この映画とは関係ない話だが、白人同士で戦えば「黒人を出さないのは良くない」、白人の敵に黒人を出せば「黒人を悪役にしていて良くない」「白人が黒人を/黒人が白人をを倒す構図は良くない」「白人と黒人を対立させて良くない」、黒人同士の戦いにすれば「黒人同士に争わせていて良くない」、つって結局何にしても批判はされる、という話を聞いてどうしろってんだと思ったことがあったな。
単一民族の島国の日本人には、白人も黒人も「欧米人」となってしまうので、おそらく感覚で理解できていないところもあるだろうと思う。
知性、品性は手もとに表れるものだとつくづく思った。
二人の話す英語の違いをわかったらもっとおもしろかっただろう。
シャーリーが安酒場で演奏するシーンはめちゃくちゃ良かったのであと三十分は観たかった。
ユーモアもちゃんとあり、メッセージ性だけではなく映画として良かった。
終わり方が良かったな。解決していないことは山ほどあるし、二人は世界を変えたヒーローではないけれど、これは二人の物語だからハッピーエンドだ。幸せでいてくれよな。
実際に二人にどの程度「友情」があったのかは当人たちにしかわからないし、シャーリーは実際には黒人コミュニティとの交流もあったらしい。
しかし腕っぷしの強い白人を天才黒人ピアニストが用心棒として雇い、南部へコンサートの旅をした、という事実があり、雇用関係だろうが友人関係だろうが二人の関係が長くあったことも事実であり、「感動の実話!」とかいう売り文句に普段ありがたみを感じることはないけれど、実話だから内容に重みが増すパターンもあるのだと知った。
物語を考える目線で観ても、やっぱこれは最高のバディ物の一つではないだろうか。
互いに無いものを補い合う正反対の二人の間で、違いを利用しあう形で結ばれる契約、利害の一致。
守り守られる関係であり、雇い雇われる関係。という全く異なる互いの力が拮抗することで関係が成立している。
どちらも限定された状況では強く頼もしく、状況によりしばしば上下関係は逆転する。
似てる二人とかよりもこういうバディものにはまあ弱いですね……
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