星か獣になる季節/最果タヒ

「地下アイドル、愛野真美ちゃんの応援だけが生き甲斐のぼくと、同じクラスのイケメン森下。ある日、真美ちゃんが殺人犯だというニュースを知ったぼくらは、手を組んで行動を起こす。」


 森下は「真美ちゃんが好き」だけをインプットされて動くロボットみたいだったし、山城は「きみの幸せがぼくの幸せ」以外が消えた世界で生きているみたいだった。

 二人とも真美ちゃんを好きな理由がすんごく薄っぺらく(意図してそう書いているのではないのなら申し訳ないのですが)、かつ行動は極端で、その盲目っぷりのみでかみ合いながらもガチ恋か崇拝かなど推し方の違いで衝突するなど、オタク目線で見るとめんどくさい。が、これはドルオタ目線で読む話ではない。


 基本的にこの二人に感情移入したり気持ちを想像する話ではなく、アイドル、というより、もはやただ一つの概念のためだけに突き進む人間と、その結果残された人間の話だったように思う。


 青春という季節に星になった一人と獣になった一人、だったのか。


 なんでも人にあげちゃう優しかった森下は、真美ちゃんに自分の人生まであげちゃったってことなのか。


 山城の一人称語りで、彼のセリフには鍵括弧なし、改行無しで進む。読みにくいしわかりにくい。まさかこれ全部、山城の妄想だったらどうしようかと恐怖して読んでいたけど、妄想ではないにしろ全て回想だったのか、と思ってやっぱり少し恐怖した。


 ご当地アイドルでもないアキバのアイドルの推しの実家が偶然自分の地元で、同じメンバーガチ推しの人間が偶然同じクラスにいる、なんてそんなわけないだろと思ったりするが、物語とは「そういう前提があったとして」から始まるものだと思うのでいい。


 詩人でもある最果タヒ氏。

 伝えたいメッセージや、書きたい世界観というもの以前に、とにかく言葉があふれて止まらない人なのだろうなと思いながら読んだ。

 一つ一つは綺麗な言葉たちを血反吐吐きながら書いているように見えた。

 おもしろい、読みやすい、なんて理由ではなく、なんだかわからないけど読まされてしまい、一気に読み終わって、放心。圧巻。というような読後感。後味の悪さではないがずっしり残る、けれども確かに爽やかな青春小説とも言えるような気がした。

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