第8話 能力レベル

 アルフレッドさんを救護室に運んだ後、魔物解体カウンター組は引き続き【解体】を試してみた。


 トサカーン(トサカがやけに鋭利なニワトリのような魔物)、ボールピッグ(文字通りボールのようにまんまるな子豚の魔物)、ロングホーン(ヤギに似た魔物でめちゃくちゃツノが大きい)など、Fランクの魔物を中心に20体ほど解体した。

 魔物肉を食用としているだけあり、獣型の解体依頼が多いみたい。

 捌いた魔物肉は精肉店に下ろし、ツノや牙、皮などは武器店や服飾関係の店に回っていく。その際に発生した料金のうち、手数料を引いた分が冒険者の懐に入る仕組みになっているんだって。


「よーし、じゃあ次はEランクっす!」


 結局昨日持ち込まれたFランクの魔物は全部私が解体してしまったので、すっかり上機嫌なナイルさんがいそいそとEランクの魔物を担いできた。本当にちゃっかりしている。


「Fランクは比較的小型が多いが、Eランクになるとそれなりに大きな獲物が増えてくる。このワイルドブルはツノが硬くてな。加工して武器に使われることが多い」


 ドルドさんがつきっきりで解説してくれるので、解体対象の魔物の知識も身についてとても助かる。元いた世界でも、新しい仕事を覚える際は身体を動かして身につけるタイプだったんだよね。こうして実践形式で学べるのは性に合っている。


「それにしても、サチは平気なのか? 魔物の解体なんて、年頃の嬢ちゃんだと卒倒もんだと思うが」


 ドルドさんが感心したように腕組みをしている。


「私、一時期料理人を目指していたことがあって……魔物もジビエだと思えばあまり抵抗はありませんよ」


「ガハハ! 豪胆な嬢ちゃんだな。気に入ったぜ」


「恐れ入ります」


 なんて話している間に、作業台にワイルドボアが横たえられた。ホーンラビットと比べると、倍以上の大きさだわ。


「よぉし! いっちょやりますか! 【解体】!」


 気合を入れて、ワイルドブルにナイフの切っ先を向けた。


 が、しかし。


『対象レベルが対応可能な範囲を超えています。スキルの実行を中止します』


「え!?」


 先ほどまで頭の中でキラキラと輝いていた解体の地図が浮かぶことも、手が自然と動くこともなく、天の声は非情なことを告げてきた。

 天の声が聞こえないドルドさん、ローランさん、ナイルさんは戸惑いがちに小さく首を傾げている。


「対象のレベルが高くて、【解体】が発動しなかったようです……」


「えっ!? まじっすか!?」


「【解体】スキルも万能ではないということですかね」


「ふうむ。今の能力レベルだとFランクが限界というわけか」


 さっきもチラッと聞いた能力レベル。

 私はドルドさんに詳しく尋ねることにした。


「能力レベルってのはな、【天恵ギフト】特有のもので、一定数の経験値を獲得すると【天恵ギフト】の能力が向上するってもんだ。上限はレベル10で、【天恵ギフト】に付随する固定スキルを得たり、発動時間を短縮したり、効果は人それぞれだがな」


「サチさんの場合、能力レベルが上がらないと上のランクの魔物に対してスキルが発動しない可能性が高いですね」


「そ、そんなぁ〜!」


 ナイルさんが露骨に残念がっているけれど、つまりはFランクの魔物を地道に解体し続けていれば、経験値が貯まってそのうち能力レベルが上がるということだよね。伸び代があるってことは、現状を悲観する必要はなさそう。


「すみませーん。ホーンラビット10頭、解体お願いします!」


「おっと、今日の客が来たようだな。おう、今行く!」


 すっかり放置してしまっていた無人のカウンターから、冒険者と思しき男性が覗き込むようにして声をかけてきた。ドルドさんは景気良く返事をすると、依頼者の元へと向かった。


「皮とツノは買い取りで。肉は持ち帰って食べるんで、引き取りで」


「あいよ。急ぎか?」


 ニヤッと不敵な笑みを浮かべるドルドさんに、私は嫌な予感がして密かにスタンバイする。


「え? ああ、すぐできるなら助かるけど……珍しいですね、ドルドさんがそんなこと聞くの」


 常連と思しき冒険者の男性が戸惑ったように笑っている。


「ふん、実はな、新人が入ったんだよ。おい、サチ! ホーンラビット10頭だ。いけるだろう? ローランとナイルは作業台に運んでやってくれ」


「うっす!」


 ローランさんとナイルさんが慣れた動きでカウンターの外に出て、ホーンラビットを運び込んでくる。10頭綺麗に並べられたところで、私は意気揚々と頭の中で(【解体再現】)と唱える。


 シュパパパパパパァン!!!


「うえええ!? え、今、一瞬で……ええっ!?」


「ほらよ、肉だけ引き取りだったな。他の素材は買い取りに回しとくから、次来た時に換金分を渡すがいいか?」


「ええ、もちろん! すっげえ……断面も綺麗だし美味そう。帰って早速調理するよ! ありがとう!」


 顎が外れるんじゃないかってほどあんぐり口を開けた冒険者の男性に、得意げな顔をしたドルドさんが手際よく魔物肉を包んで手渡した。

 男性はとても喜んで去っていった。

 ふぅ、なんだかとても充足感を覚える。


 爽やかな気分で額に滲んだ汗を拭っていると、天の声が頭の中に響いた。


『レベルアップに必要な経験値を獲得しました。能力レベル2にアップします』


「え」

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