第4話 魔物解体カウンター

「『ギルド』は各国の王都の中心に居を構えています。国ごとに存在し、情報の連携を密に取る組織なんです。魔物と共存するこの世界では、多くの人が冒険者として生計を立てていますし、彼らに生活が支えられていると言っても過言ではない。そんな冒険者を管理し、不要なトラブルや身の丈に合わない依頼を避けるために『ギルド』は存在しています。この国、ドーラン王国も、王都サラディンに『ギルド』を構えています」


「へえ……」


 アルフレッドさんに連れられてやってきた大きな建造物。

 見上げるほどに大きく荘厳な建物で、圧倒されてしまう。人の出入りが激しく随分と賑やかねえ。


「さあ、どうぞ中へ。案内します」


「お邪魔します……」


 ギィ、と両面開きの扉を押し開けて中に入ると、ワッと喧騒に包まれる。


 あちこちで冒険者と思しき人たちが集まって情報交換をしている様子。みんなゲームで見るようなしっかりとした装備に身を包み、斧や長剣を携えている。

 やっぱりここは元いた世界とは違うんだ。

 そう思い知らされると同時に、少しワクワクとした気持ちを抱いてしまう。多分私の目はキラキラ輝いていると思う。


 入って正面には5つに仕切られた窓口がある。

 どの窓口にも冒険者が並んでいて、カウンターの向こうにいる女性たちがにこやかに対応にあたっている。


「こちらが受付カウンターです。冒険者登録やクエストの受注、クエストクリア報酬の受け渡し対応をしています。向かって右手がラウンジ。あそこの丸テーブルと椅子が数組並んでいるところです。冒険者たちの休憩所でもあり、情報収集の場でもあります。ラウンジの奥の掲示板が見えますか? あの掲示板にびっしり貼り出されているのが依頼書です。薬草採取や魔物討伐、鉱石の収集に護衛の依頼などなど、冒険者はあれらの中から仕事を選んで受注します。依頼はクエストと呼ばれ、AランクからFランクまで難易度によって分類されています。冒険者もランク付けされていて、基本的にランクに見合ったクエストを受ける仕組みになっています」


 アルフレッドさんに促されてラウンジの奥の掲示板に視線をやる。

 壁一面がびっしりと依頼書で覆い尽くされている。一体いくつのクエストがあるのだろう?


 感心している間にも、アルフレッドさんの解説は続く。


「クエストを達成することで、ギルドから報酬が支払われます。冒険者はクエストクリアの報酬で生計を立てているのですよ。そして、あともう1つ。大切な収入源があります。それが――」


 歩き始めたアルフレッドさんに続いて、受付カウンターの左手へと進んでいく。

 少し奥まった先には、受付カウンターとはまた別の2つのカウンターがあった。


 1つは見たところ武器の手入れや販売をしているのかな? 口髭たっぷりの背が低めのおじさんがカンカンと剣を鍛えている。


 そしてもう1つのカウンターには、冒険者の行列が出来上がっていた。みんなそれぞれ魔物と思しき獲物を担いでいて、なんとも血生臭い光景である。


「もう1つの収入源、それは魔物素材の買取です。魔物の皮やツノ、牙などは防具や武器の素材になります。それに獣型の魔物肉は一般家庭にも並ぶ馴染みの食肉です。冒険者は魔物を狩り、仕留めた獲物をギルドに持ち込む。それを素材ごとに解体するのが、ここ、魔物解体の受付カウンターです」


「……解体」


 つい先ほど、耳にしたばかりの重要なキーワード。

 私は思わず確認するように呟いてしまった。


「ええ、そうです。僕はあなたの【天恵ギフト】は、魔物解体を指すのではないかと推測しています」


 アルフレッドさんは神妙な顔で頷くと、スタスタと魔物解体の受付カウンターの前に向かう。私も慌てて冒険者の間を掻い潜りながらカウンターへと向かう。


「Eランク、ワイルドボア2頭だ!」

「Fランク、ホーンラビットを頼む」

「こっちはDランクの七色鳥の解体を頼む!」

「ローラン! EランクとFランク、任せるぞ!」

「ひええ! もう手一杯ですぜ!」

「うるせえ! まだまだ終わらねえんだ、気張れ! ナイル、お前はDランクを頼む」

「っす! 奥の作業台使うっすよ!」


 カウンター内ではガタイのいい初老の男性が青年2人に怒鳴るように指示を出しながら冒険者から魔物を預かっている。

 入れ替わり立ち替わり、止まることなく冒険者が魔物を預けていく。

 カウンター内には数えきれないほどの魔物の山。それぞれ誰の依頼かが分かるようにタグがつけられている。色が違うのは至急性の違いかな?


「やあ、ドルドさん。今日も盛況だね」


 殺伐としたカウンター内に、アルフレッドさんは陽気に声をかける。彼は空気が読めない人なのかしら? よく声がかけれるなとビックリした。


「おう、アルフレッドか。見ての通りだ。この時間帯はいつもこうだ。暇なら少しは手伝ってくれてもいいんだぜ?」


 ドルドと呼ばれたのは、テキパキと魔物を預かっては他の2人に指示を出している初老の男性。

 彼はアルフレッドさんを視界に入れると、相好を崩して返事をした。仕事の手は止めずに列を捌いているあたりがプロの仕事で感服する。


「はは……僕はほら、ね? 逆に迷惑をかけると思いますから」


「あー、そうだったそうだった。それなら腕が良くて根性のある奴を雇ってくれや。猫の手も借りたいぐらいの忙しさだ。おい、ローラン! Fランク追加だ!」


「ヒィィィ!」


 カウンター内では、ローランとナイルと呼ばれた青年2人が半ベソを掻きながら走り回っている。

 なんと過酷な業務環境なのかしら。

 元いた世界の職場を思い出して思わず合掌する。ご苦労様です。


「新人さん、連れて来ましたよ」


「おう、分かってる分かってる。こんな忙しくて血生臭い仕事を希望する変わり者はいねえよな……って、なんだって!?」


 アルフレッドさんと軽口を叩き合いつつも手を止めることなく動かしていたドルドさんの手が止まる。そしてクワッとアルフレッドさんに食ってかかった。


「新人さん、連れて来ましたよ」


 ニコリと爽やかに微笑むアルフレッドさんを、ドルドさんだけでなく私も目を剥いて見つめる。


 ギギギ、とゆっくり首を動かして辺りを見回せば、視界に入るのは息絶えた魔物の山、解体用と思しき包丁やノコギリ、疲労困憊の先輩従業員たち。


 え。まさか、私の新しい職場ってここなんですか!?

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