第34話 番外編④ 妹の帰省(その2)

住まいの方へ移動してお茶会となった。


「香織さん、お茶菓子もありますし、お好きな飲み物を言って下さいね?」


どうやら、さっきのを怒ってない…のかな?

流石、花音さんは大人の女性だなぁ。


「じゃあ、私はコーヒーでお願いします」と香織。


「俺も同じで。ああ、俺が淹れますよ。花音さんは香織と、お話してて下さい」


「私は、ミルクティーでお願いします。それにしても、本当に兄妹仲が良いんですねぇ?驚きました…」


「本当は、お兄と二人で話そうかと思ったんだけど、芹沢さんが居た方が話は早いかな…」


「どうしたんだ?」と俺は飲み物を二人に出しながら話を促した。


「今回来た要件の一つが、お兄に最後の通告をしたかったんだよ」


「通告って、なんの話なんだ?」

香織は、かなり真剣な表情をしていた。まさか…。


「お兄のその顔だと、気付いただろうけど、ホントに?」


「えっ…!?」と花音さんは驚いた。


「香織…。以前も言ったが、俺達は兄妹だ。だから、俺にそのつもりは無いよ」


「…それって、香織さんからプロポーズされていたの?…かしら?」と花音さんは少し動揺している。


「兄妹って言っても、血は繋がってないじゃん!お父さんから『お前達がいいなら、一緒になりなさい』って遺言も貰ってるのよ!私は本気だし、真剣だよ!?」


「香織…すまない。俺には、それは出来ないんだ。お前は、俺にとって大事な妹なんだよ。母さんからも、『香織の事は大事にしろ』って遺言を貰ってる」


「大事にするなら、結婚して、大事にしてくれたらいいじゃないのよっ!?」


「母さんの言う『大事に』は、結婚の意味ではないと、俺は感じたんだ。俺は兄として、お前を大切にする!」


「私…、お兄の事、一番良く解ってる!気遣い屋で、優しくて、でも傷付きやすくて…。あの女、千崎の事でボロボロになったお兄を見て、私が側で支えたいって思った!!どうしても…ダメなの!?」


「すまない…。だが、お前の事はたった一人の妹として、愛している。花音さんとは別な意味での、俺にとっての一番なんだよ!」


「はぁ…。やっぱりダメかぁ。わかったよ」と香織は項垂れてしまった。


俺は香織の手を握り「すまない」と詫びた。


「…香織さんは、余程…ケイの事が好きだったんですね?女性から、男性にそこまでの思いを告げる場面は、私は初めて見ました」


「芹沢さん、ごめんなさい…。別に貴女を困らせたかった訳では…、ないんです」


「うん…。わかりますよ。お互いの気持ちをハッキリさせたかったんですね?」


「…わかっては、いたんです。けど、諦められなかったの」


「香織さんは、ケイのどこが好きだったんですか?」


「…全部です。強いて言うなら、優しすぎるところ、かな…?」


「そうですか。先程、車内で聞かれていた事をお答えしますね。私が、ケイのどこに惚れたかです。それは『一緒に居てホッとする』ところなんですよ」


「えっ?優しい所…とかでは、無いんですか?」


「勿論、それもあります。ただ、結婚を見据えてのお付き合いを私は考えていましたので、私としては『一緒に居てホッとする』『あまり気を使わないで済む方』と言う事が最もな理由です」


…知らなかった。改めて聞いた事もなかったけど…。花音さんが俺に惚れた理由と言うか、花音さんが求める必要条件的な事を、俺は満たせていた…と言う事だろうか?


「結婚する、という事は、これからの一緒に居る時間を共有する事になります。だから、「好き」と言う気持ちだけでは、私は判断出来ないと思っていたんです。ケイとは、一緒に居たい、安心出来る、自然体の自分で居られる等、いろいろな要素が歯車の様に噛み合ったんですよ」


「う~ん、そうなんですね…。まあ、お兄から聞いて、出逢い方には…ちょっと驚きましたけどねぇ?」


「そうなんですよね。土曜日の夜のお店で、でしたから…。そこだけ切り抜かれると、ちょっと弱いんですよね」


「う~ん、なので芹沢さんは、想像してた女性像と全然違ったんで驚きました。と言うか…芹沢さんを見ると、ホントに家の兄でいいのかな?って思いますけど…」


花音さんはニコっと笑いながら「いいんです」と断言した。


「コーヒーをどうぞ?このマドレーヌは、近くのパン屋さんで作ってる物で、中々美味しいですよ」と花音さんは、香織に促した。


「戴きます…。そう言えば、今日の晩御飯はどうしますか?」とコーヒーを飲みながら香織が聞いてきた。


「大丈夫だ。店を予約してあるから。花音さんの知り合いがやってるお店なんだよ」と俺は話した。


「そうなんだ?何料理なの?」


「香織さんは、海鮮が好きだと聞きましたので、割烹居酒屋です」


「え!?お高い所なんじゃないですか?」


「大丈夫ですよ。テーブルに椅子席なので、気を張らないで食事を食べられる所です。香織さんは、お酒を飲めるんですよね?」


「ええ、嗜む程度ですが好きですよ。あ、お兄は全然飲めませんよ。知ってますよね?」


「ケイは、出会った日にそれがわかりましたので、無理に飲ませたり等はしていませんよ。香織さんも、私の事は苗字じゃなくて、花音かハナで呼んで下さいな?その方が気楽でしょう?」


「じゃあ、お言葉に甘えて『ハナさん』でいいですか?可愛い響きだし…」


「ええ、どうぞ」


香織のヤツ…なんだろう。何か…を感じる。以前の香織からは感じなかった陰だ。

俺や、花音さん以外の事で、何か話たい事があるのではないだろうか…?

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