第33話 番外編③ 妹の帰省(その1)

花音さんと、お付き合いを始めて7ヶ月目のある日…。

今日は、妹の香織かおりが一ノ瀬市に一時帰省する日だ。


花音さんは、昨日から少し落ち着かない様子で、何度も「もし、結婚に反対されたりしたら…どうしましょう?」と繰り返し話していた。

都度「大丈夫ですよ」と話しているが、不安は拭い去れない様子だ。


ジムニーは狭いので、今日は花音さんの車で一ノ瀬駅に香織を迎えに来た。

駅の構内にあるカフェで、コーヒーを飲みながら待つこととなった。


「花音さん、大丈夫ですからね。何も心配することはありませんよ」


「…なんか、会った途端にガッカリされたりしたら、どうしようかなって…。ずっと悩んでるんですよ…」


「花音さんらしくないですねぇ?自信を持って大丈夫ですよ?」


「…私が三つも歳上って、妹さんはどう思ってるんでしょうね?」


「俺の予測ですけど、二人は波長が合うと思います。妹は、気が強いので、ちょっと取っつき難いかも知れませんけど、すぐに打ち解け…」

…側に人が来た気配を感じた。


「誰が、取っつき難いって?」


「香織!?いや、今のはちょっと…」


「私の悪口かよ?」


「違うって…」


「あの、初めまして。芹沢花音です。ケイ…いや、恵介さんと半年程前からお付き合いさせて頂いています」


「どうも~。初めまして、柏野香織かしわの かおりです。家の兄が、お世話になっております。…なるほどですねぇ。おにいが惚れた訳だわ…。とても、お綺麗ですね」


「ありがとうございます。香織さん…聞いてた以上に可愛いですねぇ!それに…、二人は似てますねぇ!?顔立ちとか、雰囲気が…かなぁ?」


「良く言われるんですよね。同じ環境で育ったからかなって、俺は思うんですけど」


香織は、髪を切ったのかミディアムになっており、軽くウェーブがかかっている。少し染めており、髪色は栗色だ。少し見ない間に随分と大人っぽくなった気がする…。


「お兄、なぁに?ジロジロ見て」


「いや、前はロングだったけど、髪切ったんだなって…」


「そうよぉ!誰かさんのせいでね!」


「さあ…?誰だろうね?」


「お前じゃ!」

と香織は肘打ちしてきた。

結構痛いんですけど…。


──────────────────────


花音さんの車で、アパートへ向かう。


「芹沢さん、いいんですか?宿なら、今からでも取れますよ?」と香織はアパートに泊まるのには気が引ける様子だった。


「私が、ケイに一緒に住む事を提案しましたので、帰省の際には私のアパートが実家だと思って下さいな?気を使う必要は一切ありませんよ。

それに、隣室の客間に泊まって頂くのですから、ホテルと変わりありませんよ」


香織が泊まる部屋は、俺と花音さんが出会った最初の晩に泊めて貰った部屋だ。

俺の荷物が多少はあるが、大分整理したのと、大事な物は花音さんの部屋に移してある。

小さな仏壇は置かせて貰っているが、いつ、誰が来ても泊まれる様にはなっている。


「では、お言葉に甘えさせて戴きます」と香織も覚悟を決めた様子だ。


「香織さんは、看護師さんのお仕事なんですよね?夜勤もあると、ケイから聞いておりました。大変なお仕事ですね?」


「ええ。けど、もう大分慣れていますよ。芹沢さんは、おにい…いや、あにのどこが気に入ったんですか?」


「そうですね、いろいろと…。ケイ?出会った経緯等は香織さんにはお伝えしてるんですか?」


「ざっくりとは、伝えてあります。今日、詳しく話そうと思っていました」


「そう…。じゃあ、アパートに着いてから、ゆっくりお話しましょう」



──────────────────────



花音さんのアパート、まあ今は俺の自宅でもあるのだが…着いた。


ここまで、香織は静かだった。

だが、なんとなく…俺には、嵐の前の静けさのような気がしていた。


まずは荷物を泊まる部屋に置いてから、花音さんの部屋でお茶を飲みながら、ゆっくり話をする事となった。


俺は、香織を部屋へ案内した。


「失礼します…」


「香織、荷物を置いたら父さんと母さんに挨拶してな?」と俺は仏壇のある場所を示した。


「荷解きする程の物も無いから、先に御線香上げさせて貰うね?」と、香織は仏壇の前に座って手を合わせた。


「…結構広いねぇ?お兄の前のアパートも良かったけど、ここも良さそうだね?花が一杯あるし」


「花音さんが、趣味で栽培してるんだよ。お前、あっちでの生活は変わりなかったのか?」


「う~ん…。あったと言えば、あったなぁ。今回はいろいろ、話したい事があって来たんだよ。芹沢さんにも、会って見たかったしねぇ」


「そうか…。俺で力になれる事があるなら、何でもするぞ?」


「じゃあ、まず一つ目ね」

と言うなり、香織は俺に飛びかかって来た!


ぐぉ!?


取り敢えず受け止めたが、コテン…と倒れてしまった。なんせ、座った状態だから…と言うと道場では怒られそうだが…。

何の為に居捕いどりの稽古してんのよ?とか言われそうだ。


「香織!お前、ちょっと落ち着け!」


「ヤだ!もうハグとかしてくれないとか、お兄は言いそうだもん!言われる前に、がっぷり組み付いちゃる!」


「ちょお待て!女子の発想じゃないぞ!?それ!こんな所、花音さんに見られたら…」ら…?視線を感じる…。


「じーーー…」と言いながら花音さんは顔を半分だけ廊下の壁から出して、俺らを見ていた…。家政婦は見た!状態だ。


「すみません!花音さん、違うんです…!」まるで浮気現場を見つかった悪い男のような弁解だ…。


「…やっぱり、普通の兄妹じゃなかった…」


「いや…香織!?離せ!」


「イ・ヤ・だ!!」


力強すぎ…!仕方がない、奥の手だ。


「きゃん!?」と叫んで香織は離れた。


「ちょっとぉ!脇の下に指突っ込むなんて!乙女にしていいと思ってんのっ!?」香織は、またもや構えて臨戦態勢となった。


対して、俺も構えた…。くっそ、まだやるのか?


「はい、そこまで!」と花音さんが、俺と香織の間に入って、俺達二人の額に手のひらを当てた。


「花音さん、すみません…。帰ってくると、いつもこんな調子なんです」


「だって、こうでもしないと、もうハグも出来そうにないからねぇ?」


「兄妹としてのハグならいいですよ?…けど、それ以上は、私は認めません」と花音さんは穏やかに言った。


「…わかりました。気を付けます」

しおらしく、香織は謝った。


「さぁ、お茶の準備が出来ましたから、住まいの方へ行きましょう?」と花音さんに促された。

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