第32話 番外編② ある日の休日デート

花音さんとのお付き合いが始まって、三週間ほど経ったある日の事だ。


その日は、夜の居酒屋の仕事はお休み。

花音さんの方の仕事も、上手い具合で空けたので、一日オフの日となった。


今日はゆっくり寝てよう…と思ったが六時半にパッチリ目が覚めてしまった。

花音さんは、まだスヤスヤと眠っている。


俺は音を立てないように起きて、メモに「洗車してきます」と書き置きして、花音さんの部屋を出た。


まずは…と近くのコンビニでホット・コーヒーを買って、飲みながら目的地へと向かった。


花音さんのアパートから15分程の所に洗車場があり、最近ではそこで洗車している。

高圧スプレー洗車で、車体を洗い、その後は拭きあげしてから、通販で買ったコーティング剤で仕上げる。

安価で購入出来たのだが、思いの外、きちんと水を弾いてくれるのだ。これはリピート確定だな。


さて、と近所のパン屋に寄って菓子パンと惣菜パン等を買って帰路に着いた。


玄関にコーヒーの匂いがしているので、花音さんは起きてるだろう。


「ただいま帰りました」


「おはようございます。ケイ、早起きですね?」


「ええ、ゆっくり寝てようと思ったんですけど、目が覚めちゃいまして。洗車してきました」


「あれ?そのキーは、私の車の方ですか?」


「だって、今日は花音さんの車でドライブ・デートだって言ってましたからね」


「ありがとうございます。…もしかして、楽しみで早起きしたんですか?」


「あ~、それはあるかも知れませんね。小学生の頃とか、運動会とか遠足とかあると、やたら早く目が覚めてましたから」


「楽しみにしてくれてたなら、良かったです。まずは、朝ごはんですね」


花音さんは、スパニッシュ・オムレツとブロッコリーのサラダを作ってくれていた。

コーヒーを淹れて、俺が買って来たパンとともに食べた。


「ケイはすっかり、町田ベーカリーさんの常連ですね」


「好みなんですよね、ここのパン。今日はオマケもくれましたしね。まあ、パンの耳ですけど…。このリュスティックは新作だそうです。イチジクと胡桃が入ってるそうですよ」


「へぇ、イチジクってあまり食べる機会がないですよね。…パンはちょっと固めだけど美味しいですね」


「イチジクはドライフルーツを使ってるんですねぇ。…ところで、今日は何処へ行きますか?」


「フフフ~、私に任せて下さい。二人では、まだ行ったことが無い所ですよ。ランチも予約してます」


「それは楽しみですね」




花音さんの車でドライブに出発した。

天気も良いし、ドライブ日和だな。



「ケイは、今の生活に少しは慣れましたか?」


「ええ。まだ覚えなければならない事が、かなり多いですけど、大分慣れましたよ」


「以前のお勤め先と比べて、どうですか?」


「そうですねぇ。何より、花音さんと一緒に居られる時間が多くて嬉しいですよ」


「あの…そうではなく、仕事的にどうですか?」


「そうですねぇ…、楽しいです!」


「う~ん、シンプル過ぎる…。辛い面とかは、無いんですかね?」


「ええ、無いですね。まず、パワハラが無い。この点についてはもう、天国です。そして、花音さんの仕事も、居酒屋の方もほとんど残業が無いので、その点も天国ですね。まあ、居酒屋の方は、酔っぱらいの相手をしなきゃならない時もありますので、そこは少し大変ですけどね」


「そうですか。それなら良かったです。もう少しで、最初の目的地に着きますよ」



最初に着いたのは、ソフト・クリーム…いや、アイスクリーム屋だ。


「ここのアイスクリームは、何を食べても美味しいんですよ。彼氏が出来たら一緒に来たかった場所の一つなんです」と花音さんは話した。


「俺は初めて来ました。普段、アイスはあまり食べないですからねぇ。オススメとかありますか?」


「私のイチオシはピスタチオのアイスです。二番目は抹茶か、チーズですね~」


「チーズ味のアイスなんて、あるんですね?これは…迷うなぁ…」


「ダブルにして、違う味にするといいですよ。私はケイのと違う味にしますから、合計四種類の味を食べられますよ」


「ダブルか…そんなに食べるのは初めてですよ。なるほど、一人で来たら、四種類も食べられないですもんね。じゃあ…、ピスタチオとチーズでお願いします」


「じゃあ、私は抹茶と、コーヒーにしますね」


店員さんに、カップに盛り付けてもらって、店の外にあるベンチで食べる事にした。


「では、頂きます!…あ!ちゃんとピスタチオの味がする。へぇ~、これは美味い!」


「でしょう!で、お互いにシェアしながら食べましょう?」


「はい、どうぞ。花音さんの抹茶のも頂きます。…こっちも、ちゃんと抹茶の味がして、思ったより甘さ控えめですね?」


「…ケイ?」


「…はい?なんか不味かったですか?」


「そこは、あ~ん!でしょう?甘えていいんですよ?」


「すみません…気が利かなくて…なのかな?」


「はい、あ~ん!」


「…やっぱり照れますね。慣れないなぁ。…ん!コーヒー味の方も美味いですね」


「ケイも食べさせて下さい?」


「はい、じゃあピスタチオを、あ~ん!」


「…うん!やっぱりここは、ピスタチオが一番美味しいですね~」


「俺のと、取り替えっこしましょうか?」


「いいのよ~。また来ればいいんだから」





その後、また車に乗ってドライブとなった。

こっちの方向に行くと…海に出るな。


「花音さん?もしかして海の方に向かってます?」


「そうです。湊浜美町の方なんですけど、海岸線をドライブして、その後、ランチに行きましょう」


こちらの方向に行くと、海と山の境界が狭くなるんだよな。海は、かなり久しぶりだ。


「花音さんは、こちらの方にはよく来られてたんですか?」


「知り合いが喫茶店を経営してるんですよ。それで、たまに海を見ながら来てましたよ。今日のランチは、そこを予約しています」


「そうなんですね。遠出もしてるから運転が上手いんですね」


「私は普通じゃないですか?上手いのかなぁ?」


「乗っていて、安心感がありますよ。前の職場では、利用者様の送迎もあったので、職場での安全運転講習もあったんです。車の運転には、その人の性格が結構出たりしますよ」


「へぇ、運転が荒い方も居たんですか?」


「中には居ました。講習で実技もチェックされますので、そこで指導が入ったりしてましたね」


「そういう取り組みもあるんですねぇ?」


「まあ、お客様を車に乗せる業務もあるので、安全第一なんですよ。あ、海が見えて来ましたね」


「う~ん、久しぶりに来たなぁ。半年ぶり位かな。ケイはこっち方面は来た事がありますか?」


「ええ、三年近く前になりますが…」


「…ちょっと…?もしかして?」


「はあ…まあ、お察しの通りです…」


「…千崎さんとね?キーッ!」


と言いながら、花音さんは俺の右腕を軽く引っ掻いた…。

可愛いな、焼きもち焼いてくれるなんて。




海岸線を走りながら、しばらく走ると花音さんは脇道へ入った。え、山へ向かってるのか…?

結構な上り坂だけど…。


「花音さん?どこへ向かってるんですか?」


「フフン、着いてのお楽しみですよ~」


着いた所は灯台だった。こんな所に灯台があったとは…。


灯台からはパノラマで景色が見えた。絶景だ!


「凄いですね。絶景スポットだ。花音さんは、前からここを知っていたんですか?」


「ええ。今日ランチに行く、喫茶店の店長に、連れて来て貰った事があるんですよ」


「へぇ…。ここは、いいですね。水平線も見えるし」


「遠くの方ですけど、かなり大きな船が見えますよね。あれは何の船でしょうね?」


「あれは…どうやらコンテナの貨物船みたいですよ。かなりデカいですね」


「大分前の事らしいんですけど、鯨も見えた事があるそうなんですよ」


「へぇ、鯨かぁ。生で見たことはありませんねぇ」


「さあ、そろそろ喫茶店に行きましょうか?」



来た道を引き返しながら、町の方へ向かい、小路から海へ向かうと一軒の喫茶店があった。


看板に「喫茶・軽食シーサイド」と書かれていた。


建物の一階部分が、車を複数台停められる駐車スペースとなっており、喫茶店自体は二階の高さにある作りだ。


「ここは、海を見ながら食事をしたり、コーヒーが飲めるんですよ」と花音さんは話した。


カランコロンと玄関のベルを流しながら入ると

「いらっしゃいませ。ハナさん、お久しぶり~」と一人の女性店員が出迎えてくれた。



「ケイ、私の高校の時の同級生で、こちらの店長の垣内弥生かきうち やよいさんです」


「はじめまして、柏野恵介です」


「あらあら、素敵な彼氏さんを掴まえたわねぇ!とってもお似合いですよ!」と店長さんは明るくてサッパリした印象の方だ。


「一番良い席を取って置きました」と案内されたのは、店の奥の門の席だった。

これは凄い…オーシャンビューだ。

遠くの方の山に灯台らしき物が見えた。


「あれって…、さっき行った灯台ですか?」と俺が聞くと


「流石、眼が良いですねケイは。私、ちょっと方向音痴なんで、弥生ちゃんに聞くまで判らなかったんですよ~」



メニューを手渡されたが、飲み物だけ選んで下さい、と花音さんに言われた。


「俺はマンデリンをホットでお願いします。花音さんは?」


「私はダージリンを。それと、このポットにブレンド・コーヒーを入れて下さいな」と花音さんは頼んでいた。テイクアウトも出来るんだな。


「ランチは何を食べることになるんですか?」と俺が聞くと


「来てからのお楽しみです。メニューの関係でパンにしました。バゲットなんですけど美味しいですよ」と花音さん。


「パン好きなんで大丈夫ですよ。では、楽しみにしておきますね」




「お待たせ致しました~」

と店長が運んで来たのは、

…ステーキ?

デミグラス・ソースの…?


「ケイ?ビーフ・シチューなんですよ」


「えっ?…てっきりステーキなのかなって思いました。こういう形状のビーフ・シチューは初めてです」


「私も、ここで初めて食べたんです。母が作ってくれていたのは、普通のシチュータイプの物だったので」


「家もそうでした。しかも、豚肉を使っていたので、デミグラスソースのポーク・シチューでしたよ」


「アハハ、あるあるですよね。牛肉が苦手な方もいらっしゃいますからね。さぁ、食べましようか?」


「戴きます。…すごい、ホロッホロですよ…!フォークで肉が切れてしまう。そして…美味い!」


「良かった~!月に一回の限定メニューで、しかも10食限定なんです。だから、これ狙いのお客様も多いんですよ」


「これは美味いですね。嵌まるお客様も多いんじゃないでしょうか。これって…、お値段お高めなんじゃないですか?」


「今日は、ネモフィラの時のお返しです。お金は気にしないで下さい」


「わかりました。ありがとうございます」


こういう時に遠慮すると、花音さんは嫌がる。

お言葉に甘えよう。


「それにしても、良いお店ですね。海を見ながら食事が出来るカフェって、中々無いですよ」


「この海岸線には、もう一軒あるみたいなんです。そこには行った事が無いので、今度行ってみましょうか?」


「はい!」





食事が済んで、今度はどこに行くのかな?


「もう少し先に、海水浴場があるんです。今時期は、まだ泳げませんけど、行ってみませんか?」


「ええ、いいですよ」



車で15分程で目的地に着いた。


漁港の手前側なんだな。多分、遠浅の地形なのだろう。


砂浜には、散歩してる人の姿や、カモメがいた。



「ケイ、後部座席にあるバスケットを持って下さる?」


「わかりました」


さっきテイクアウトしたコーヒー等が入っているのだろう。


潮風が心地よい。

気温は少し高めだけど、海の側だからか、丁度良く感じるな。



「いやぁ、解放感があっていいですね!」


「ここも、彼氏が出来たら来たかった場所なんですよ」


花音さんはバスケットからレジャー・シートを取り出して、二人で広げて座った。



「なんか、たまにのんびりもいいですねぇ?」


「本当に…」と花音さんは俺の手を握って、指を絡めて来た。


「…何か、話したい事があるんじゃないですか?花音さん」


「…うん。私…もう少し早く貴方に出会えてたら良かったなって、このところ…ずっと思ってたんです」


「そうですか。どうして…ですか?」


「いくつか、理由はあるんですけど、一番はケイが大変だった時期に出会えてたら、精神的な支えになれてたかなって…」


「そう…ですね。けど、その理由に関して言えば、俺は今のタイミングで良かったと思っています」


「なぜ…、ですか?」


「貴女に…無様ぶざまな姿を見せずに済みました」


「そんなに…酷かったんですか?ケイはしっかりしてるし、想像がつかないんですけど?」


「…特に、失恋鬱になってからの一年間は酷かったんですよ。お陰で…、友人を一人失いました」


「それは…、どうしてですか?」


「高校の時の友人の一人が、気を利かせてくれて、飲みに誘ってくれたんです。

勿論、俺はノンアルコールでしたが…。

友人と会っても、会話がまるで弾まなかったんです。どうしても、千崎さんとの『ある場面』が頭から離れなくて…」


「『フラッシュ・バック』ですかね?どんな場面なんですか?」


「俺が『何であんな事したんですか?』と千崎さんに聞いた時の、その返答なんですよね。

『自分だけ傷ついたって思わないで!!』って逆ギレされた場面です。あの言葉は、どういう意図で言ったのかって…、まるでわからなくて。

ずっと、答えの無い問いの中にいました。

多分、俺の中で処理出来ないやり取りだったからか…、ずっと、そればかり考えてしまってたんですよね」


「そう…ですか。友人の方はどうして離れてしまったんですか?」


「それが…『お前!人の話聞いてんのか!?せっかく誘ってやったのに!たかが失恋で!』って怒りだしてしまいましてね…。途中で帰ってしまいました。まあ、彼の気持ちも解るんですけどね。

…そんな状態だったので、その時に花音さんに出会わなくて良かったと思うんですよ」


「そうですか…」


「はい。他にも理由があるんですか?」


「女の旬は、短いからですよ~」


「それは、花音さんがそう思っているだけではないですか?30歳過ぎてから結婚される女性も結構多いですよ?知り合いでは40歳で結婚された女性もいます。そして、ご出産もされました」


「う~ん…私が三つも歳上なばかりに、ケイが…気の毒というか。それに、結婚や出産を考えると、私としては30歳前には、お相手ときちんとしたお付き合いがしたかったんです…」


「そうですか…。これは、以前にも言いましたが、俺は今の花音さんが好き…というか、愛しているんです。だから、俺に気の毒と思う必要はありません。ただ、そうですね…。出産は年齢を重ねるとリスクが高くなりますから、花音さんの言っている事もわかります」


「あと、私だって…一人で寂しかったんです。だから…」


俺は花音さんの肩を抱き寄せて、頬にキスをした。


「そうですね…。過ぎ去った時間は取り戻すことは出来ないでしょう。けど…その分、これからは俺が貴女の側にいます」


「…ありがとう、ケイ」


花音さんも俺の頬にキスしてくれた。


「すみませんでした。せっかくのオフに、湿っぽい話をさせてしまいましたね」と花音さんは少し落ち込んでいた。


「いいじゃないですか?今じゃなきゃ出来なかった話なんですよ、きっと」


「ケイ…?ちょっと甘えていいですか?」


「どうぞどうぞ!」


「膝枕…して下さい」


わかりました、と俺は足を伸ばした。


花音さんは、コテンと横になって、俺の太股に頭を乗せた。


「固くてすみません…」


「いいんです。…もう一つ、いいですか?」


「はい、どうぞ?」


「ケイは…いつまで、敬語なんですか?」


「すみません。これは、クセ…と言うか、もはやアイデンティティなんです。小学生の頃から剣道やっていたので、先輩達からの指導の影響もあるのですが…。花音さんとの会話については、ある先生からの教えを守っている事もありまして…」


「へぇ?どんな教えなんですか?」


「高校の時の剣道部の顧問の先生の教えなのですが『結婚してからも、相手に敬意を持って、『さん』を付けたらいいよ。後は言葉を丁寧にすること。そうすれば、いつまでも新鮮な関係で居られるからね』と言う教えです」


「なるほど。ケイはそれを実践している訳ですね?」


「そうです。…と言うか、花音さんも敬語ですよね?」


「私もクセなんです。自営業の関係で、オンとオフの使い分けが面倒と言うのもありますけど。ケイは…もしかしたら無理してるのかなって…」


「いえ、無理ではありません。俺の場合は、これがデフォルトなんですよ」


「わかりました。…少し、眠っていいですか?」


「どうぞ」


間も無く、花音さんは寝息を立て始めた。

疲れてたのかな…?




──────────────────────




「…んー、ケイ?私、何分位寝てました?」


「30分程です。お疲れだったのでしょう?」


「そんなに!?すみませんでした…」


「いいんですよ。コーヒー貰っていいですか?」


「えー!?寝てる間に飲んでたら良かったのに…」


花音さんは保温ポットからコーヒーを入れてくれた。


「起こしたら悪いなぁ、と思いまして」


「ホント、優しいですよね?あ、私にも一口下さいな」


海を見ながら考えていた。


「花音さん、晩飯なんですけど、帰ってから作るのも大変ですから、外食にしませんか?」


「賛成です!何を食べに行きますか?」


「う~ん、焼き肉か回転寿司か…」


「焼き肉がいいです~!!」


食い気味に花音さんは言った。

お昼も肉だったから、寿司を選ぶのかなと思ったら、以外だ。


「即答ですね?良い店を知ってます。そっちは俺がご馳走しますよ」


「わかりました。ホルモンも食べたいな~、あとガツも~」


「いいですね。じゃあ、もう少しのんびりしてから、出発しましょうか?」


ある日の休日デートのシメは焼き肉となった。



──────────────────────



その後、湊浜美町をドライブして、普段は入ることの無いスーパー等で買い物をしてから、錦元町にある焼肉屋へ着いた。


『焼き肉 伊の庵』


以前の職場の同僚や、学生時代の友人とたまに来ていた店なのだが、無煙ロースターがあるので、衣服等にも匂いが着きにくい焼肉屋だ。


「ヘイ!らっしゃい!」暖簾を潜ると店員の元気な声が聞こえた。


「花音さん、掘炬燵なんで座敷の方に上がりましょう?」


さあて、まずは肉だな。


「花音さん、食べたい物を選んで下さい」


「そうですね。まずは、ロースとホルモンとガツを」


「花音さん、お酒飲んでいいですよ?ここからは俺が運転しますから」


「じゃあ、お言葉に甘えて生ビールを中ジョッキで」


「俺は烏龍茶で。後、セセリとハツと牛タン、それと冷麺をお願いします」


「はいよ!」と店員は厨房へ入っていった。


「私、冷麺って食べたことないんです。冷やし中華とは違うんですか?」


「ええ、麺が違うんですよ。蕎麦粉にデンプンを混ぜているので、かなりコシがあります。俺は結構好きなんですよ」


「へぇ、少し食べさせて下さる?」


「勿論、遠慮しないで食べて下さい。女性にも結構、人気のようですよ」


「お待ち!」と店員さんが、まずは飲み物を持って来た。


あ…!ここに来たらアレを食べないとなぁ。

店員を呼び止めて「ニンニクのホイル焼きを一つ」と俺は追加した。


「じゃあ、休日に乾杯!」とジョキとグラスを合わせた。


「ケイ…?ニンニクを食べたら…今晩する時に臭くなっちゃいますよ??」


「花音さんは、ニンニク嫌いでしたっけ?」


「いえ…寧ろ好きなんですよ~。けど、ケイに嫌われたくないから…」


「そんな事で嫌いになんてなりませんよ。遠慮しないで食べましょう?ここの名物の一つですから」


「一つ…と言うことは他にもあるんですか?」


「ええ、冷麺もそうですけど、実はカレーがマジで美味いです!」


「え!?焼き肉屋でカレーですか?」


「牛スジを使ったカレーなんですけど、トロットロに煮込んでるんです。シメに食べましょう?」


「これは、カレーの分、お腹空けとかなきゃですねぇ?」



──────────────────────




「ニンニク美味しい!ホックホクなのと、甘みがありますね!」


「そうなんですよね。ここに来たら、これを食べない事には…、うん、美味い!冷麺も食べて下さい」


「はい。…すごいモチモチした食感の麺ですね。サッパリしてるから焼き肉とも合いますね!」


「そろそろ、カレーを頼みましょうか?いろいろ食べてるから、まずは一皿頼んで様子を見ましょうか?」


「そうですね。お腹も結構一杯になって来ました」


俺は店員を呼んでカレーを頼んだ。

カレーは盛り付けるだけだから、出てくるのが早いんだ、これが…。


「ヘイ!お待ち!」


「ちょっと、ケイ!?結構、盛りがいいですよ…?福神漬の他に沢庵まで付いてる!」


「ここはそうなんですよ。まずは花音さん、どうぞ」


「はい。…これは美味しい!牛スジがトロットロですねぇ。家ではちょっと作れないかも」


良かった。ご満悦のようだ。


「…私、これ以上はもう食べられません!後はケイにおまかせします」


「デザートとか、どうですか?」


「いえ、もうお腹一杯です。あ…けど、ビールをもう一杯いいですか?」


「どうぞ、まだ二杯目ですもんね」



──────────────────────



「お腹一杯です。ケイ、ありがとうございました」


「なんのなんの、ですよ!」


「私、ここのカレーのファンになっちゃったかも…」


「俺も、カレーだけ食べに来てた事があります。また来ましょう?」


「はい。…あの、お願いが…」


「どうしました?」


「一緒にお風呂に入って、身体を洗って欲しいんです…」


「いいですよ。今日は甘えっこさんですねぇ?

ちょっと酔っ払ってますから、花音さんは長湯はダメですよ。垢擦りは別な日にしましょう」


「…そっか、あわよくば垢擦りを、と思ってましたが、我慢します」





こうして、ある日の休日デートは終わった。


また、のんびりした休日を味わいたいものだ。

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