第28話

夕方近くなって、一ノ瀬市に着いた。


俺の提案で、今日の晩飯はレンの弁当屋で買う事となった。


ついでに交際の件も報告したら…レンに泣かれた。


「コイツ、ホン………っトに辛い恋愛経験したんで、何卒よろしくお願いします!!」

と、レンは花音さんに泣きながら話していた。


ついでにレンの奥さんも出てきて、奥さんも泣いてた…。


アイツ、俺の事どこまで奥さんに話してるんだろ…?

俺、可哀想な人認定されてるんじゃないのか?





長い旅も終わりだ。


あれ?アパートの玄関前に誰か居る…?


…デカい…190cmはあるぞ!?

そして、スキンヘッド…。


「まさか…赤城の関係者ですかね!?」と俺が聞くと


「いえ、うちのアパートの住人で、探偵事務所の方です。先程、『報告があります』とメールが来ていましたので、もう少しで帰宅すると返信しておきました」と花音さんは話した。


えっ…?






──────────────────────






花音さんの事務所に上がって話しとなった。


しかし、圧が…凄い。

190cm台は知り合いでも居ないからなぁ…。


「ケイ、先日タクシーから部屋へ運んで下さった出町さんです。元プロレスラーの【アイアン・出町】さんですよ」


「その節はお世話になりました」と俺はお礼を伝えた。


…元プロレスラーで、今は探偵事務所勤務なんだな…。めっちゃ強そうだ。


「どうも、出町鉄郎です。芹沢さんにはお世話になっております」


挨拶が丁寧なのと、思ってたより声が太くない。爽やかな感じ…、以外だ。


「調査の方で、何かありましたか?」と花音さんが聞いた。


なるほど…専門家って、探偵を雇った訳だ。


「ありました。結論から申し上げますと、赤城慎吾は亡くなりました」


「「えっ!?」」俺と花音さんはハモってしまった。亡くなった…??


「いったい…、どのように?」と花音さんが聞くと


「先日、そちらの柏野さんが取り押さえて、警察署へ連行された時の事です。

パトカーから降りた所へ、一人の黒ずくめの女性が突っ込んで来て、離れたと思ったら、赤城の腹部に深々と包丁が刺さっていたそうです。

無論、その場に居た警察官数名が女を取り押さえようとしましたが、捕獲できず、その女は現在も逃走中です」


「…そう…ですか」


花音さんの顔は青ざめていた。


「花音さん?大丈夫ですか?」


「大丈夫…。ちょっと驚いただけです。他には…何か情報は?」


「はい。一通りお伝え致します。まず、赤城は株式会社ZQOPSの契約社員でした。

新比古市の支社から、一ノ瀬市の本社へ、1ヶ月の出張で来ていたとの事です。

これから警察の捜査が進むのですが、赤城を含む複数名での、特殊詐欺、恐喝等があるとの情報です。他にも余罪は、まだまだありそうですがね。

赤木は、複数の女性から、かなりの恨みを買っていたらしく、刺した女性は新比古市の二嶋友香子ではないか、との情報です。

目撃者の話では、赤城を刺した女性は警察署の近くのコンビニから出てきたらしく、赤城を待ち構えていた線が強いそうです。

赤城は直ぐに病院へ搬送されましたが、今朝亡くなりました」


「そう…ですか。ありがとうございました。

費用は後程、駒木探偵事務所にお伺いして、お支払い致します」


「では、私はこれで。また何かありましたら申し付け下さい。

柏野さん、芹沢さんを宜しくお願い致します。

栄心武館は伊達じゃありませんね」


そう言って出町さんは帰っていった。





花音さんは言葉を発せず椅子に座ったままだ。


取り敢えずお茶を…。


「ケイ…」


「はい」


「因果…応報…ですね」


「そうですね…。他にも共犯者と被害者多数…なんでしょうね。

花音さんが赤城に深入りしなくて良かったと思うばかりです」


「…二嶋さん、じゃないと思うんです」


「お知り合いですか?」


「元同僚なんです」


「花音さんは、以前は何のお仕事をされていたんですか?」


「新比古市で携帯ショップに勤めていました。

父から社会勉強だと言われまして、短大を卒業してからは向こうで一人暮らしをしながら働いていたんです…」


「赤城とは、どのような経緯で知り合ったんですか?」


「お店に良く来るお客様だったんです。ある日、手紙を渡されて、食事に誘われたのが始まりです」


「…なるほど。二嶋さんとは、今でも交流は?」


「いえ、ありません。けど、携帯の連絡先は知っています。かけて…みます」


プルルル…と呼び出し音が小さく鳴り、相手は出たようだ。


「友香子さん?お久し振りです。芹沢です…はい、元気に過ごしております。友香子さんは?

はい…はい、最近、一ノ瀬市には…はあ、来ていない。

…実は、赤城慎吾さんの件で。ええ、ご存じでしたか…。ああ…やはり警察から連絡が。

友香子さんは、赤城とは関係が…。

はい…あぁ…やはり………」


花音さんは電話の後、黙ってしまった。


俺は新しく淹れたミルクティーを花音さんの手元に置いた。


「二嶋友香子さんも…赤城の毒牙に……。

けど、赤城が刺された時は新比古市に居たそうで、アリバイもあるそうです」


「そうですか。…俺が思うに、刺したヤツはプロなのではないか…と思うんです」


「刺した人が…プロ…?」


「分かりやすく言うと、殺し屋です」


「なぜ…ですか?」


「赤城は元自衛官で、徒手格闘の経験があります。自衛隊拳法とも呼ばれているらしいのですが、ナイフを扱う訓練もあるんですよ。

その赤城が、あっさり刺された…。

恐らくは、相手も刃物の扱いに習熟している可能性が高いと思うんです。

赤城の側にはもちろん警察官もいたでしょうが、それすらも掻い潜って刺した、そして逃走した事になります。

何より、恐らくは赤城を尾行して、警察署の近くに先回りしていたのは素人とは考えにくいです…。

警察署に入ってしまうと、手の出しようもありませんからね。その前のタイミングを狙ったのでしょう。普通の女の人には、まず無理です」


「…なるほど。そうなると、もしかしたら、ケイと赤城が接触していた時には、既に張り付いていたんでしょうかね?」


「その可能性もありますね。どの段階から尾行していたのかはわかりませんが、俺と赤城が争っている場面も見ていたのかも知れません」


「けど…、この街に殺し屋なんて…いるんでしょうか?」


「この街とは限りませんね。例えば、他の大都市とか…。そういう裏の仕事を請け負う人間がいるらしいと、話には聞いた事があります」


「…そんな仕事があるなんて、映画とか漫画の世界だけかと思っていました」


「今も逃走中、と言うのが気になりますね。

普通の人なら直ぐに捕まっていますよ。

警察署の前での大胆な手口、警察官を振り切っての逃走…。

それから時間もかなり経過しています。

多分、捕まらないのでは…と俺は思います」


「誰かに頼まれて…でしょうかね?」


「可能性はあるでしょうね。複数の女性に恨みを買っていたようですし…。

もしかしたら、被害者本人だけではなく、家族や友達、彼氏等が依頼した可能性もあります。

あくまで、可能性の話ではありますが…」


「そう…」


「ショック…ですよね?…もし、一人で考えたいなら、俺は自分のアパートに戻りますよ」


「…ダメ!居て…」


「一人で考えたそうな顔をしています…。いいんですか?」


「………居て…欲しい。もう…この話はやめましょう。明日、探偵事務所に行く時は付き添って下さる?」


「はい、構いません」


「…ケイ」


「はい」


「…抱きしめて、欲しいんです」


「…わかりました」



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