第27話

高速のサービス・エリアでの昼食後、今は花音さんが運転している。


「ケイ?寝ててもいいですよ~?」


「いえ、眠くはないので大丈夫ですよ。

花音さんが眠くならないように、何かお話しましょうか?」


「そうですねぇ…。ケイは、千崎さんの後には、出会いとか無かったんですか?

『失恋鬱』と言う事でしたが、ケイは…優しいし、顔も十人並みだし、身体も引き締まってるし…結構モテそうに見えるんですよね?

…色々ご縁もあったんじゃないですか?」


「カッコ悪い話になってしまうんですが…」


「大丈夫、ケイはカッコ悪くてもカッコいいですよ!道中、まだまだ長いですし~」


「カッコ悪くてもカッコいいって…、斬新ですけど矛盾してますね?

わかりました、お話しましょう。

そうですねぇ。出会いはありませんでしたよ。

まず、『失恋鬱』って言うのが最初は、よくわからなかったんです。

ただ、明らかに心の不調を感じたので、心配してくれた同僚からの紹介で、心療内科にかかりました。

医師から、詳しい症状や、身の回りであった事などを聞かれて、診断としては失恋からの『鬱』との事でした。情けない話ですがね…」


「別に、情けなくは無いと思いますよ?

それだけ好きだったんですね…。千崎さんの事が?…ちょっと妬けるなぁ~」


「…まあ、綺麗で、年上だけど可愛い人だなって、勤め始めた時から思ってはいたんです。

仕事も教えて貰っていましたし、仕事の面では尊敬もしていました。

ただ…、俺は女性経験が無かった上に、押し倒されて…中途半端に彼女の身体を知ってしまった…。

その途端にフラれたので、ダメージが大きかったんです…」


「そう…ですよねぇ。年齢的にも一番いろいろしたい時期に、生殺しは…キツかったでしょうね?」


「そう…なんです。

周りの同じ年代の人達は、それなりに幸せそうで、付き合ってる人もいて…。

旅行とか、誕生日とか、クリスマスとか…、いろんなイベントを楽しんでる姿を見たり、話を聞いたりもしていましたので…結構苦しかったんです」


「…その時期って、どんな風に過ごしてたんですか?」


「仕事中心の生活でした。毎日深夜までの残業でしたので…。休みの日は家事をしたり、買い物に行ったり、本を読んだり、映画を見に行ったりして過ごしてましたよ」


「映画はいいですねぇ!今度行きましょう?

道場は、いつ頃から行かれてるんですか?」


「一年程前からです。ようやく心が回復してきたので、身体を動かしたくて始めたんです」


「お友達からの、女性の紹介とかは、なかったんですか?」


「あ~、ありましたね。けど、お断りしました」


「あら?なんでですか?」


「う~ん…。鬱から生じている症状なのですが、恋愛への興味がなくて、性欲も無くなってたんですよ。医師からも、そういう症状が出るとは言われていました」


「…今は、大丈夫のようですねぇ?」


「そうなんですよね。花音さんに会ってから…。花音さんのお陰だと思いますよ?」


「そうなんですねぇ?ちょっと嬉しいのと、照れるのと…。因みに、どんな方を紹介されてたんですか?」


「高校の時の友達が、何人か紹介してくれてたんですが…。

その時は、まだ鬱の症状が強くて、友達や、紹介してくれた女性に会っても、楽しく会話などは出来なかったんですよ。

おまけに、曰く付きの女性ばかり連れて来たので…」


「え?曰く付きって、どんな方だったんですか?」


「う~ん、凄い人ばっかりで…花音さんに話していいものなのか…」


「ちょっと!余計に気になりますよ!凄い人って、どんな人だったんですか?」


「少し長くなりますが…。

一人目は市内の女子高卒の元スケバンの方でした。

ガラが悪いのと、かなりヤンチャな感じで、話がさっぱり合わなくて…。

俺、学生時代に絡まれて喧嘩になったりもしてたんで、ヤンキーとか不良が大嫌いなんですよ。

紹介してくれたヤツもそれを知ってたのに、なぜ連れて来たのかな?って今でも疑問です」


「スケバンかぁ。私の代でも他校でいましたよ。剣道少年とスケバン…。ラノベや漫画だったら、無くは無い組み合わせですねぇ?」


「う~ん…。単純に好みから大幅にズレてたんですよね。俺、あまり細身の女性はダメなんです」


「ちょっとぉ!?言外に私が太いって言ってるのぉ~!?」


「違いますよ。花音さんは普通じゃないですか?胸も大きいし…モロに俺の好みなんですよ」


「…喜んでいいのか、悪いのか…?他の方はどんな方だったんですか?」


「二人目は、一見可愛く見えたんですけど、ちょっと変な雰囲気の人だったんです。なんと言うか…おバカさんっぽいと言うか…。

それで気になって、別な友達に聞いたら、ちょっとした有名人だったんです。

中でも有名なエピソードが、通学中に自転車で停まっていた乗用車に突っ込んで、血まみれのまま普通に登校して、クラス中が大騒ぎしたという伝説を持っている方でした…。

直感的に、これはアカンな…と思って、お断りしました」


「なんでまた、血まみれで登校したんでしょうね?普通なら自宅に帰って手当てするなり、保健室や病院に行くなり…」


「本人的には大丈夫だと思ったらしいです。

その大丈夫の基準が、普通からは、かなりズレていたと、友達からの情報でした」


「ふむ…まだ居るのかな~?」


「はい。次で最後なんですが、三人目です。

見た目普通でしたが、蓋を開けたら某宗教団体の勧誘のプロの方だったんです。

この方は、ほぼストーカー状態で、深夜にアパートの前で待ち構えてて、俺を洗脳しようと必死でした。

縁が切れるまで大分悩まされた経過があります」


「それはまた…、とんでもない人を紹介されましたね?洗脳って…、ケイは大丈夫だったんですか?」


「ええ。まるっきり興味がなかったんで、『5分だけね』って言って約束して貰って、話を聞くだけ聞いて『はい、じゃあ帰ってね』を16回程繰り返したら、諦めてくれました。

…と言った具合に、まともな女性がいなかったんですよねぇ…」


「16回って…。よく怒りませんでしたね?ケイは…。ふむ~、随分と凄い方が続きましたね?」


「三人目を断って以来、高校の時の友達とは会っていません。

まぁ、悪い友達だったんですよ。

俺のアパートに来ては騒いで、近所から苦情も言われてましたので…。スッパリ縁を切りました」


「トラウマの上に、トラウマが重なっちゃいましたね?」


「上手いこと言いますね?

まあ、悪い縁も切れて、この半年くらいは、ようやく静かになって、落ち着いた所だったんです」


「そんな中、私と出会った訳ですね?」


「はい。…そうだ、花音さんは、いなかったんですか?赤城以外には…?」


「そうですねぇ…。高校生の頃に、友達からの紹介があったんですけど、恋人としてのお付き合いではなく、お友達での交際だったんです。

私、すごい地味子だったんですよ~」


「なんか、地味子って…今の花音さんからは、あまり想像がつきませんね?」


「髪型も三つ編みツインテイルで、染めてなかったですし、趣味が園芸でしたからねぇ~。

その男の子とは、カフェに行ったり、公園を散歩したり、図書館に行ったりしてたくらいですねぇ」


「めっちゃ青春っぽくていいじゃないですか?

今は…、その方はどうしてるんですか?」


「大学進学で東京に行かれて…。それ以来、連絡は取り合っていません」


「好き…、だったのでは…ないんですか?」


「あらあら?ヤキモチかしら?

その時は、年頃の女子として、男子に興味があったくらいで、明確に好きという感情ではありませんでしたね。

今は、明確ですよ!ケイに」


「そうですか…。ありがとうございます。

けど、今…その方が花音さんの前に現れたら、どうしますか?

勿論、花音さんがしあわせになる方を選んで頂いて構いません」


「ケイ一択ですよ!」


「…なぜ、ですか?」


「身体の相性、プラス、性格の相性です!」


「んん?…そんなにいいんでしょうかね?

それに、その方が経済的にもしっかりしてたら…花音さんは、その方を選んだ方が良いのでは…?」


「じゃあ、お答えしますね?

相性はとっても大切なんですよ。

性格的には勿論ですが、身体の相性も、とっても大切なんです。

例えば喧嘩しても、…そっちの方で仲直りしやすいんです。

で、ケイとは離れたくありません!

経済的に、もし彼が上でも、それでも私はケイを選びます」


「そこまで、なんですねぇ…。びっくりだけど、嬉しいです」



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