第26話

帰路についたが…


「この先、しばらくお店とか無いんですよね」


「私も、さすがにお腹が空きました」


「花音さん、後ろにビニール袋があるんで、開けて見て下さい」


「はい、あ…」


「どうぞ?」


そう、初日に買い込んで置いたペットボトルのコーヒー類、カロリーメイト、シリアル・バー、魚肉ソーセージとチーカマだ。


「これは、かなり嬉しいです。チーカマ懐かしい~」


「どうぞ、食べて下さい。俺にはコーヒーだけ下さい。ブラックのヤツです」


「ケイは食べないんですか?」


「今は、お腹が空いてませんので、コーヒーだけでいいです」


「私はカフェ・ラテの方を貰いますね。こうなる事を見越していたんですか?」


「いえ、非常食です。旅に出る時は、自分はこんな感じなんですよ」





しばらくして、花音さんが聞いてきた。


「ケイは、お辞めになった職場には何年居たんですか?」


「三年制の専門卒で、直ぐに入社したので四年程ですね」


「では、退職金なども?」


「それが…」


俺は細かい事情を説明した。


「そんな…、三分の一以下…しか、出ない…?」


「そうなんです。自社の退職金制度なのですが、就業規則には勤続三年以上の者には基本給×3が出る事になっています。役職が付いたり、勤続年数が長いと更に上がるんですけどね。

ですが…先月辞めた、同期の日下部さんという介護員は1に満たない金額だったんです。

彼女は黒野事務長へ直談判しましたが、例のごとく怒鳴り出して取り合って貰えませんでした…」


プチッ…と何かが切れる音がした…ような気がする…。

花音さんは携帯を取り出して、どこかへかけ始めた。


「もしもし、奈良様ですか?芹沢です。先日はどうも~。あの件とは別件の大~事なお話があります!!宜しいでしょうか~?」


…ウソだろ?また奈良理事長に電話…。

大丈夫なのか?




電話が終わって、花音さんはため息をついた。


「ふぅ…大丈夫です。普通に出して頂くことと、これまでの残業分もきっちりしろ!と請求しました」


「花音さん?どんだけ力あるんですか?」


「フフフ~…内緒っ!」





途中、トイレ休憩を挟んだり、昼食は高速のサービス・エリアの食堂で食べた。


俺は天ざる蕎麦で、花音さんは地鶏の唐揚げ定食を頼んだ。本当に唐揚げ大好きなんだなぁ。


期待してなかったけど、予想より美味くて驚いた。


「ケイ、はい!あ~ん」と唐揚げを食べさせて貰った。めっちゃ照れるのと、初めてだ…。


「あれ?初めてでした~?」


「そうでふ…」


食べながら返事をしてしまった。


「ふ~ん、ケイの初めてを、いろいろ貰っちゃいましたね~」


「やらしく聞こえるのは、気のせいじゃないっすね?」


「もちろん、そっちも入ってますもの。ケイも私に食べさせて?」


「…エビ、でいいですか?」


「そんな!メインじゃないですか!?大葉でいいでふ…」俺は海老天を花音さんの口に入れた。


「美味しい~、けど話してる途中に口に入れないで下さい~」


「視線がずっと海老天から離れなかったんで、外れではないでしょう?」


「当たりです~。ケイは私の事、結構見てますよね~?」


「綺麗だし、結構楽しいので」



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