第25話

花音さんはベッドに仰向けで横になっていた。


「大丈夫ですか?」


「…私、普段運動しないから、結構疲れました~」


「お風呂にお湯入れて来ますからね?

先に入って、今日はもう寝ちゃって下さい」


「…ダメ~、一緒に入って身体洗って欲しいなぁ」


「わかりました」


昨日、身体洗って貰ったのが、よっぽど気持ち良かったのかな?


風呂は割りと直ぐに一杯になった。

ジェット・バス凄いな…。

これって確か、15分以上浸かっていると、筋肉がほぐれると聞いたことがある。




「花音さん、お風呂いいですよ」


「…ケイ、服を脱がせて下さい…」


そこまで重症なの?


シュルシュルと服を脱がせていると…なんだか変な気持ちになってくる…。

いかん…花音さんがこの状態では、今日はアカン!…と自分に言い聞かせる。

あれ…?これって。


「花音さん、靴擦れ起こしてますよ。結構酷い…」


「新品のスニーカーだったからかなぁ。ちょっと痛いけど、大丈夫よ」


「いや、お風呂上がりに処置します。さあ、入りましょう。靴擦れのところは優しく洗いますね」


花音さんを起こして風呂に入った。


「傷、沁みません?」


「実は…」


我慢してたんだな。


普段、結構話す花音さんが静かに目を閉じている。

無理をさせてしまったか…。


花音さんの顔を見つめていたら、

突然カッ!と目を見開いた!


「わっ!!」


「おわっぁ!…びっくりしたあ!」


「フフ…大方、私の口数が少なくて気にしてたんでしょう?」


「そりゃ、そうです」


「大丈夫…。ちょっと眠たいだけです…」


「わかりました。さあ、身体洗いますね?」


「あい~…」


なんか、こんなに弱ってる花音さんも…可愛いな。


「傷のところは、サッと洗い流すだけにしますよ」


「…あい」


返事まで普段と違う…。


「…髪は自分で洗います。ケイはゆっくり湯船に浸かって下さいな」


様子を見てたけど、ずっと目を瞑ったままだ。

…余程眠いのかな。


花音さんは、先に上がって髪を乾かすとの事だ。


俺は髪や身体を洗った後、ゆっくりバスタブに浸かった。

…このジェット・バスかなりいいな…。

泡で全身をマッサージされてる感じだ。

さすが7千円…。


俺が風呂から上がると、花音さんはお茶を淹れてくれていた。


「花音さん、先に足の処置をしますね」と俺はデイバッグから救急キットを取り出した。


…靴擦れが思ったよりも大きいので、絆創膏を二枚使う事にした。

片方のガーゼ面の側面、テープ面を他機能ナイフの小型のハサミをスライドして小さく切り取る。そうして、二つの絆創膏の側面同士を少し重ねて繋げればガーゼ面が大きくなる。


でもって、アロエ軟膏を先に傷に塗ってから絆創膏を貼っておしまい…っと。


「ケイは、器用だし、手慣れてますね?」


「道場とかで、怪我することもありますからね。小さい処置とかテーピングは得意なんですよ」


…ポロっと花音さんの目から涙が零れた。

え…?痛かった…かな?


「どうしました?花音さん?」


「…ごめんなさい。私…、男の人に、ここまで優しくして貰った事…なくて…」


「…聞きづらいんですけど…、赤城はどうだったんですか?」


「付き合った当初は…優しかったんです…。

けど、一週間も経たない内に、粗雑な扱いになって、お金の無心までされて…。

断ると部屋の中で暴れたり、大事な物も壊されたりして…」


「そうですか…。嫌な事を思い出させてしまいましたね。すみませんでした」


俺は花音さんを優しく抱き締めた。


「私…もう、ケイ無しじゃ無理なんです!」


「大丈夫、大丈夫。これまでの分も、俺に出来ることで、花音さんにしてあげますからね。

何も心配する事はありませんよ。…いや、心配は…あるかぁ…。仕事がなぁ…」


「フフ…格好つきませんねぇ?」


「いや、まったくです。俺らしいというか…」




そのまま、花音さんは直ぐに眠りに就いた。


俺はテレビをつけて見たが、あまり面白そうな番組はやってなかった。

テレビをつけっぱなしで、俺もいつの間にか眠ってしまった…。




──────────────────────




「ケイ…」と呼ばれて眼を覚ました。


「ん…おはようございます。結構寝てましたね?何時ですか?」


「8時半過ぎです」


「そろそろ起きなきゃまずいですね。身支度もありますから。足はどうですか?」


「大丈夫、けど…筋肉痛です~。主に足が…」


あらら…。


「階段降りられますかね?俺がおんぶしましょうか?」


「ダメそうなら、お願いします~」


「朝飯はどこかコンビニか、カフェにでも入りましょう」


「そうですね。それにしても…せっかくモーテルに泊まったのに、何もしないで寝ちゃって…ごめんなさい」


「いいんですよ。俺も少し疲れてましたからね」


「でもぉ」


「今からだと時間ありませんし、それは帰ってから、ですね?」


「…あい」


二人で身支度を整えて、部屋を後にした。

階段には手摺がついていたので、花音さんはそれに掴まりながら、降りようとしたが…


「ぐぎぎぎぃ!足が痛くて無理~!」と、ギブアップ…。


結局、俺が花音さんをおんぶして降りた。




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