第21話

「なんだか恥ずかしいし~、申し訳ないです~」


「俺も少し恥ずかしいですけど、人に背中を洗って貰うって気持ちいいんですよ。

まあ、全身洗って差し上げますけどね」


「凄い真面目な顔して…、凄くやらしいですね…ケイは」


「そうですかね?普通ですよ?」


「やー、けど背中は気持ちいいわ~」


「でしょう?特に肩甲骨らへんとか、背骨に沿った上の方なんかは、自分では洗い難いのです。で、一回ボディソープで洗ってから、コイツの出番です」


「それって…」


「そう、垢擦りミトンです。さあ、全身の垢を落としますよ?」


「ちょっとまった!…ボロボロ垢がでたら、私汚ない女じゃないですか~!?出来たばかりの彼氏に見られたくない~」


「…花音さんに汚ないものなんてありませんよ」


「凄い真面目な顔して、ちょっと変態チックに聞こえるんですけど…」


「擦ります」


まずは、足先から…おお…出る出る!


「ケイ?面白がってません?」


「いや~、超楽しいっす…」


「ダメだわ、この人…自分の世界に入ってる…」


「あまり強くは擦りませんが、痛かったら言って下さいね?」


「は…はい!」


「花音さん…若干…感じてませんか?」


「だって!気持ちいいんだもん…」


よし、次は腕、そして身体の前面、最後に背中だ。


出る出る出る…まるで消しゴムのカスのように…。



終わったら、花音さんは脱力していた。

「恥ずかしかったけど、超気持ち良かったです~」と今は湯船に浸かっていた。


俺は背中だけ花音さんに擦って貰ったが、あまり垢は出なかった…。なんでだ?




俺も湯船に入りながら、花音さんに聞いてみた。


「それで…大事な話というのは?」


「…ケイは、私との……結婚を考えてくれていたり…しますか?」


…やはりその話か…。


「考えてなくはないのですが、俺が貴女に相応しいか、という問題が大きいです…」


「なぜですか?」


「いや…俺は貴女のような資産家ではない。

多少の貯蓄はありますが、微々たる物です。

そして、次の仕事も居酒屋に決まったばかりです。そんな状況の俺が…」


「なんの問題があるんですか?」


「貴女を養うのが、かなりギリギリというか…」


「私、養って貰うつもりなんてありませんよ?」


「けど、世間体というものも…」


「これは、亡くなった父親の言葉なんですけど『御天道様に顔向け出来ない事はしない方がいいけど、世間体を気にしてたら飯も食えない』って言ってました。

まして、ケイは真面目に働いて来たし、これからもそうじゃないかと思うんです」


「多分そう…だとは思いますが…。

花音さん…、半年程、俺の働き具合を見て、それで良ければ俺と結婚…して下さい。

ダメだと判断したら、その時点で別れて下さい。今の俺に言えるのは…、それだけです」


「…本当に、真面目な方ですね?わかりました。私の方ではもう、貴方しかいないと思っているのですけど、ケイの意志を尊重します。

半年程、見させて頂いて、ダメなら別れないで養います!」


「全然、俺の意志尊重してないじゃないですか!?

ダメならダメで、花音さんは他に良い人を見つけないと…!」


「それはもう、無理なのです…」


「…無理?」


「それだけ、貴方の事が好きなのです」


「…俺は…赤城のようなヒモにはなりたくない…」


「わかっています。なので、私の元でも働いて貰います。判断期限は半年で宜しいのですね?」


「はい…。適切な期間かは、わかりませんが、半年も働き具合を見ればわかるのではないかと…」


「わかりました。実は不動産オーナーの助手しての仕事だけではなく、秘書兼ボディー・ガードとしてもお仕事をお願いしたいと思っています」


「ボディー・ガード…ですか?」


「それはもう行って頂いていますので、報酬は後程お渡しします」


「赤城の件ですか?まだ契約前じゃないですか!? 」


「ケイは既に傷を負っています。私の気が済みませんので。

それと、副業の占い師の時にボディーガードをお願いしたいのです」


「はぁ…?」


「いろいろな方が来られて、中には途中で怒りだす方もいます。怖い思いをした事も何度かありまして…。

その際の仲裁役とボディー・ガードをお願いしたいのです」


「そうなんですか…。わかりました」


「で!」


「はい?」


「そろそろ上がりましょう~、のぼせそうです~」

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