第19話

「花音さんって、マニュアル車…大丈夫なんですね?ちょっと驚きました」


「こんな事もあろうかとAT限定にしなかったんですよ~。前からジムニーを運転してみたかったんです~」


へぇ…しかもクラッチ操作とかも上手いな。


「そうだ、宿に連絡しないと…」


「あ、ダメ!私がします。もう少ししたら運転変わって下さいな?」


「けど、部屋が取れなかったら大変ですよ?キャンセル料もかかるし…」


「大丈夫ですよ。その時はモーテルで…。

高速道路の前に、コンビニに寄って運転交代して下さいな。お手洗いも済ませておきたいし」


「わかりました」


まあ、いいっか。任せよう。


高速道路手前のコンビニに寄って、トイレを済ませた。

ホットコーヒーとホットドッグ等を二人分買って車に戻ると、既に花音さんは戻っていて、宿に電話していた。


「…はい、一人から二人に変更で。それと、客室露天風呂はありますか?…はい、ではその部屋で」


「花音さん!?それ、めっちゃ高い部屋ですよ!?」


「大丈夫です。昨日のお詫びに、私に出させて下さいな?」


「けど、俺の旅行…」


「はいはい、四の五の言わない!任せなさい!大丈夫ですから」


「彼氏としての立場が…」


「本当はガソリン代も高速代もお出したいですけど、そちらはお任せします。それでどうですか?」


「…わかりました」


ここからは運転交代。まだまだ先は長い。

まずはホットドッグを二人で食べた。


「ん~!久しぶりに食べると美味しいですね!」


「そうですね。俺も普段は食べる機会がないので美味いです。

けど、これだけだと足りないと思って、他にも菓子パンをいくつか買ってきたんで食べて下さいね」


…そうだ、忘れてたいた。


「花音さん?」


「なぁに?」


花音さんはコーヒーに砂糖とミルクを入れていた。途中で味変派なんだな?甘いのが好みだって言ってたし。


「実は昨日、職場に千崎さんが来たんです…」


「え?辞めた職場…ですよね?なんでですか?」


「それが、離婚の報告に…」


「へぇ…?わざわざですか?」


「そこまでは、視えていなかったんですね?」


「ええ、旦那さんの事で修復不可能なトラブルがある…とだけでした。やはり…、離婚でしたか」


「俺にも話があると呼ばれまして…」


「なんのお話だったんですか?」


「以前の事は、全部自分が悪かったと…」


「まったく!今更ですねぇ?

それを早く言ってくれてたら、ケイは失恋鬱にならなくて済んだのかも知れないのに…。

後は、何か言っていましたか?」


「日曜日の女は、彼女なのか?と…」


「それでケイは?」


「そうですが、何か?と…」


「後は?」


「いえ、それだけで、俺は仕事に戻りました。

まだ何か言いたげでしたが…」


「…千崎さんが、ケイとよりを戻したいと言ったら、ケイはどうしますか?」


「全力で断りますよ。無理です」


「…なぜ?」


「千崎さんには中身が無い…。まるで、母親に操られているような印象がありました。

まあ、少しばかり後から気付いたのですが…」


「そうですね…それが起因して、彼女はこの先…」


「この先…なんですか?」


「いえ…。いずれケイは知る事になるでしょうから。…あの方は、母親の呪縛から逃れられそうもありません」


「俺、もう職場を辞めているのに…そんな事を知るんですか?」


「そう…。人の噂は千里を走る。そして、必要な人には、その情報が耳に入るように…この世界は、そうなっているのです」


「…俺には、千崎さんの情報は必要ありませんよ」


「いかにも、ケイらしいですね?だから、私は選んだんですけど」と花音さんは助手席から俺を見つめていた。


「あの…あまり見られると穴が空きそうです…」


「空きませんよ~、愛の視線ですもの~」


「穴があったら入りたい…。それより気になっていたことがあるんです」


「なぁに?」


「…聞きづらいのですが、赤城慎吾の件です。

花音さんは、彼の事を…能力を使って、視なかったんですか?」


「…視えなかったの」


「え…?」


「以前も言ったように、私の力は万能ではありません。視えない方もいるのです。

何か…フィルターの様な物がかかっていて、視えない。そんな方もいるんです。

それと、私自身の事は視れないのです」


「そうなんですね。それで…お付き合いになった訳ですね?」


「そう。けど、私の身体とお金目的だったの…。付き合い始めて、次の週にはお金の無心をされた時に…これはヤバい人だ…って気付いて、彼の身辺を調べたんです。

そしたら、もう…叩けばいくらでも埃が出る人だったんです…。

彼の毒牙にかかった女性は数知れず…犯罪にも手を染めていた。

その時、私は新比古市に住んでいたのですけど、父親から事業を受け継ぐ関係もあって、彼とは早急に別れて、一ノ瀬市に戻ろうとしたんです。

けど…」


「…追われたんですね?」


「…そう。新比古駅で待ち伏せされて、連れ戻されそうになったんです。

けど、通りすがりの…ある人が助けてくれて…。私は無事に一ノ瀬市に帰って来られました。

私が一ノ瀬市に戻るのは彼も知らなかったから、大丈夫だと思ってたんですど…。まさか、エンカウントに来るとは思わなかった…」


「…赤城は、一ノ瀬市に住んでいるんでしょうか?」


「わからない…。けど、調べて貰っています」


「誰に…ですか?」


「専門家です」

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