第17話

さてと、帰ろうかな。


車に乗ろうとすると、いきなり後ろから肩を掴まれた。バキッ!…俺は左頬を殴られて倒れてしまった。…なん…だ!?


「お前っ!この前は世話になったなぁ?ハナの居どころを教えろよっ!?」


…なるほど、コイツが花音さんの元彼&ストーカーか…。


よっと!俺はネック・スプリングで立ち上がった。


「い・や・だ・ね!!」


「なんだとコイツ!?」


「アンタみたいなストーカーは、俺の彼女に近づかせない!つーか、アンタ…ヒモだろ?」


酒呑童子の店内から何人か人が出てきた。


「柏野君、大丈夫か!?」


「オーナー、大丈夫です。コイツ、俺の彼女に付きまとってるヤツなんです」


「いきなり殴られたってバイト・リーダーのうたさんから聞いたんだけど、そうなのかい?」


「はい、車に乗ろうとしたら…って、アンタ逃げないのかよ?通報されるぞ?」


「そんな事より、ハナの居場所だ!教えるまで、お前を殴り続ける!」


「なるほど、いいぜ。来いよ」


俺は右手刀を前に出して右半身で構えた。


「柏野君、加勢しようか?」


「いえ、オーナーは見ていて下さい。俺が取り押さえたら、警察に連絡して下さい」


「わかった。詩さん、スマホ持ってるかな?」


「持ってます。いつでもOK牧場」


…花音さんの話では、コイツの名前は赤城慎吾。元自衛官で、その後はチンピラや様々な詐欺などもやっていたらしい。


元とはいえ、自衛官だ。

自衛隊拳法、徒手格闘の経験はあるだろう。


ふむ…、雰囲気からしても場数は踏んでそうだな…っと、ヤツは左右のワン・ツーで入ってきた。

俺は右の手刀でパンチを捌きながら、流れる様にヤツの左右の首筋に手刀を打った!


「ウッ!」とヤツは首に手を当てながらも、右の前蹴りを放ってきた。


俺は手刀で斜めに切り下ろすようにそれを払い、剣道式の体当たりを喰らわせた。

竹刀は持っていないので両拳を縦拳でヤツの腹に入れての体当たりだ。


ヤツは吹っ飛び、地面に倒れた!


俺はヤツの右手を捕らえ、うつ伏せにして後ろ手に抑えて膝で乗った。


「さあ、警察に連絡して下さい!」





──────────────────────





その後、赤城は警察に引き渡された。


「叩けば、いくらでも埃が出ますよ。結婚詐欺とか、特殊詐欺とか、麻薬とか、恐喝とか、ヒモ?とか…いろいろとね」と、俺は警察官に伝えた。


見山先生は警察に顔が利くらしく、後から駆け付けた知り合いの警察官に、細かい事情も伝えてくれていた。


見山先生から「少し休んで行くといい」と言われて酒呑童子の事務室へ促された。


「それにしても、柏野君は変わった戦い方するねぇ?栄光先生から筋が良いとは聞いていたけど、お見事だったよ」


見山先生…いや、オーナーに褒められると、悪い気はしないな。


「ありがとうございます。最初に殴られちゃいましたけどね…」


「いや、それで相手は傷害罪さ。後から慰謝料を貰える」


「そうなんですねぇ?」


俺は、詩さんと呼ばれた女性から冷たいタオルを渡されて左頬を冷やした。


鏡で見たけど、ちょっと痣になって腫れてる感じだ…。

花音さんを心配させたくはないけど、誤魔化せないなこれは…。


「そうだ、紹介が遅れたけど、うちのバイト・リーダーの水守詩乃さんね。

彼女が第一発見者で、君がいきなり殴られたのをバッチリ見てるから、警察にもそう伝えてあるからね」


「ありがとうございます、水守さん。来週からこちらで働かせて頂く柏野です。宜しくお願い致します」


「貴方…どこかで会った事ある?」と、水守さんは不思議そうな顔で聞いてきた。


「いえ、無いと思いますけど?」


「…そっか、どこかで会った様な気がするんだけど…気のせいだね。宜しくね」


俺はオーナーと水守さんに再度礼を言って店を出た。


もう、トラブル無く帰してくれよ…。さすがに疲れた…。






花音さんのアパートに着いたのは22時を回っていた。


「お帰りなさい。遅かっ…、どうしたんですか…その顔!?」


「ただいま帰りました。いや~…不意打ちを喰らっちゃいまして…」


「誰にですか!?」


「赤城…慎吾です」


「早く上がって!詳しく教えて下さい!」


俺は花音さんの作ってくれたカレーライスを食べながら経緯を話した。


花音さんは俺の側に来て、俺の頭を優しく胸に抱き締めてくれた。


「私のせいで…ごめんなさい…」


…泣いてる?


「花音さんが悪い訳じゃない。

どこからか、赤城が俺を着けていたんでしょうね。

警察に引き渡しましたし、花音さんから聞いていたヤツの黒い情報も伝えておきました。

俺の事については傷害罪になるらしいので、後から慰謝料が貰えるって居酒屋のオーナーが言ってました」


「…痛い思いを、させてしまいました…」


「その後、やり返しました。首筋打って、体当たり喰らわしたら吹っ飛んでましたし、最後は右手首の関節を少~し外しておいたんで、しばらく悪さは出来ないと思います」


「…ごめんなさい」


「いいんですよ、そんな顔しないで」


俺は花音さんの涙を拭って、優しく頬を撫でた。

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