第9話
翌朝、芹沢さんが調理をする音で目を覚ました。
かなり、ぐっすり寝たな…。いつ以来だろう?
「あ、起こしちゃいましたか?」
「いえ、もう起きて会社に行く準備をしないと…」
「朝御飯、食べて行って下さいね?」
「はい。朝御飯なんて、久しぶりです」
「いつもは食べないんですか?」
「コーヒーを飲むくらいです。妹がこっちに来てた時は、作ってくれていましたが」
「朝はきちんと食べないと脳が働きませんよ?
妹さんは、たまにこちらに帰って来るんですねぇ?」
「ええ。俺が『失恋鬱』なのを知ってからは、年に数回はこちらに来てくれていました」
「え~と、妹さんは宿に…泊まったり?」
「いえ?俺の部屋で寝泊まりしてましたよ。
兄妹ですからね、気を使うような関係ではありません」
「…まさかとは思いますが…、一緒のお布団で?」
「いや?布団じゃなくて、ベッドがあるんで。そこで一緒に寝てたくらいですかね?」
「ちょっとぉ!くらい、じゃないでしょ!どんな関係なのよぉ!?」
「だから…、兄妹です」
「普通じゃないぃ~…」
「へっ?」
「大人になったら!普通の兄妹は、一緒にベッドでは寝ませんよお!?」
「そうなん…ですかねぇ?」
「…それ以上の関係は!?」
「まさか~、寝てる時に抱き着かれるくらいですよ?抱き着きグセがあるんですよ、妹は…。
あれ?これも変なのかな…?」
芹沢さんは立ち上がって叫ぶ様に言った…。
「あの!!私が彼女になったので、今後はしないで下さいねっ!?…あぶない兄妹だわ…」
「…わかりました。ただ、妹がなんて言うかな…。アイツ、香織は極度のブラコンなんですよ。ちょっと変わってるんです」
「…変わって、いる?」
「ええ。俺が風呂に入ってても、自分も普通に入って来るんです。目のやり場に困るって、何度言っても聞いてくれなくて…」
…芹沢さんが片膝を着いた!
「ちょっと!?大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない…よ」
「え?」
「まさか…一線を越えてる関係の兄妹なんじゃ…?」
「あ、それはありません。風呂で背中を流してくれる程度です。あとは『ウチ、お兄の事マジで好きなんだけどぉ』とは良く言われますが、まあ、ジョークですよ。かなり前からですからね。
ブラコンの妹って本当にいるんだなって…」
「ブラコンじゃなくて!異性として!好きなんですよ!妹さんは!」
「いや~、ないっすわ~。兄妹でそれは…。
それに、出来たばっかりだけど、俺好きな人いますし…」
「…信じて、いいんですか?」
「はい、大丈夫です」
「あっさり過ぎてて怖い…。今度、妹さんと…じっくり話をしなければ…」
俺は朝食を頂いて、自分のアパートへ一度戻る事になったが、玄関で「ちょっと待って下さいね」と芹沢さんに止められた。
「私の方を向いて、真っ直ぐ立って下さい」と言われて、そうした。
芹沢さんは俺の身体の回りでパチン、パチンと5回指を鳴らした。
なぞった位置関係を見ると何かの図形だろうか?
「…凄い」
「え?柏野さん、もしかして…力の流れを感じますか?」
「いや、俺って、その指を鳴らすの出来ないんですよね。それで凄いなって…」
芹沢さんは、ずっこけそうになっていた。
「最後にハイ!」と芹沢さんは両手を広げた。
「はい…?」と俺が聞くと
「もうっ!行ってらっしゃいのハグですよ~?」と頬を赤らめていた。
俺は優しくハグした。
「あ~、しあわせ~。いいですか?約束ですよ~?定時ダッシュですよ~?」
「わかりました。死んだ気で、やってみます!」
「いや、死んだらダメでしょ!?
晩御飯作って、…待ってますから。
そして、今晩は最後まで、して貰います。
気持ちを固めておいて下さいね?」
「わ…、わかりました」
う~む…。女の人って凄いな…。
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