第7話

「…という事があったんです~」


「…マジ…すか!?」


「マジです!」


あっちゃ~、やっちまったな俺…。やはり酒に、弱い…。


「そうだ…。バーの帰りって、俺どうしてたんですかね?」


「タクシーで一緒に乗って帰って来たんです。

けど、柏野さんは私のアパートに着く直前で、エネルギーが切れたみたいになっちゃって…」


「え…?じゃあ、どうやってあの部屋に…?」


「アパートの住人に手を貸して頂きました。

元プロレスラーの方なんですよ」


「えええっ?それはとんだご迷惑を…、おかけしました」


「それより、もっ!」


「…はい」


「私と、お付き合いして、くれるんですよねぇ…?」


「はい…、と言いたい所なんですが、俺の今の状況を聞いたら、芹沢さんは断るかも知れませんよ?

それに俺…女性恐怖症が克服出来ていないかも知れないんです。

これ以上…傷つくのが怖い…。

情けない話なんですが…」


「…まず、状況から教えてくださるかしら?何がそんなにマズいんですか?」


「はい…。実は、今の職場は水曜日で退職します。次の週からは別な仕事をしますが、詳しい雇用条件等は、まだ聞いていないのです」


「まあ…。けど酷い職場のようですから、辞められるのは、むしろ良いことではないですか?」


「そう…ですね。けど、収入が不安定になるかも知れない…。そんな男と付き合いたいですか?」


「ん~。まあ、私は人柄重視です。昨日、今日と柏野さんと接して、この人ならお付き合いしたいと私は思っています」


「なんとも…、おおらかですねぇ。もう一つ、次の仕事が合わなければ、東京に出ようと考えていました」


「東京…ですか?」


「実は妹が東京で働いていましてね。妹と言っても義妹なのですが…」


「義…妹…?」


「ええ。亡くなった両親は再婚同士だったんです。妹から、東京に来ないかって、以前から再三誘われていまして…」


「…妹さんとは、仲がよろしいのかしら?」


「ええ。仲は良いですよ。血は繋がってないんですけど、友達とか知人からは良く似てるって言われます。不思議ですよね?」


「義妹…と言う事は、結婚も出来ちゃいますよね?」


「まあ…そうなんですかね?考えた事もないですけど」


「とんだ伏兵だわ…」


「えっ?」


「いや…なんでも…。それより、仕事についてはわかりました。私の方で、少し考えもあります。それより、もっ!」


「はい?」


「私はもう…、貴方に惹かれています。歳上ですけど、お願い出来ないでしょうか?」


「………」


「手を、私の方へ」


…?

芹沢さんに促されて、テーブルの上…芹沢さんの近くに置いた。

その手を優しく、芹沢さんは握ってくれた。


…温かい、そして柔らかい…。


「私が、怖いですか?」


「…いえ。ただ…、また本気で人を好きになるのが、怖い…。いや違うな…。

俺も、もう貴女の事が好きなのだと思います。

だけど…それが…、怖い」


「確かに…、お付き合いすれば、いろいろあるでしょうし、喧嘩する事もあるかも知れません。

けど、その時は…、一緒に傷つきませんか?

私にはもう、その覚悟はありますよ」


…女性に、ここまで言わせてしまうとは…。

俺も、もう覚悟を決めなければならないな。


「わかりました。至らない所だらけの俺ですが…宜しくお願いします」



──────────────────────



「…もうこんな時間だ。今日はこれでお暇します」


「絶~対ダメっ」と、にこやかにダメ宣言をする芹沢さん…。


「えー?…では、どうしろと?俺、明日は普通に仕事なんですよ?」


「泊まっていって下さいな。私は、千崎さんのような生殺しにはしませんよ?」


「ちょぉっと待った!いくらなんでも性急すぎます!俺は心の準備が出来ていないっす…。

生殺しの件については……、明日で手を打っていただけませんか?

一晩、貴女の事をよく考えたい…」


「ふむぅ。じっくり派なんですねぇ?柏野さんは。

『大人の恋』に時間は関係ないんですよ?

まぁ、けど今日は、私のベッドの隣にお布団を敷きますね?」


「え?昨日の隣の部屋じゃダメですか?」


「ダ~メっ!お話しながら寝ましょう?

その前に、お風呂どうぞ?」


「いや、シャワーだけで。それに、芹沢さんが先にどうぞ?俺の後だと嫌でしょう?」


「嫌だったら泊まってなんて言いませんよ~。

けど、そうですね。柏野さんが落ち着かないでしょうから、私が先に入りますね?

お茶のお代わりは、お好きなのをどうぞ?」


「じゃあ、コーヒー頂きます。勝手に淹れちゃいますね」


…これは、とんでもないことになったぞ…。


大丈夫なのか、俺…?

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