第5話
「じゃあ、いよいよ芹沢さんの番ですよ?」
「その前に、あの元上司?さんは、大丈夫なんですかね?」
「…わかりません。けど、酒の匂いがしましたので、酔った勢いだと思います。手加減しましたし、命には関わりませんよ」
「どんな経緯があったんですか?」
「…う~ん。先程寄った弁当屋の近くに、エレガンス・イーストと言う施設があるんですよ。
老健と呼ばれる施設で、市内に何ヵ所か展開している法人なんです。俺はそこの相談員なのですが、先程の元上役は課長だった方なんです。
まあ…朝から晩まで不機嫌で、ずっと怒鳴ってる人で…。
皆からはマッド・ドッグと呼ばれていました」
「あ~、あの大きな施設ですよねぇ」
「ええ。まあ、一部の職員達からは『伏魔殿』とも呼ばれていますが…。
ここからの話は、俺が勤めている会社、それも限られた人だけが異常だと思って下さい。
友人が勤めている施設は、割りと普通だと聞いていますので」
「わかりました。その課長さんと、いろいろあったんですね?」
「そうです…。まあ、常に怒ってる人で、暴言が酷くて『お前は奴隷だ!』『貴様ぁ!俺に勝てると思ってるのか!?俺は体育大卒業で、サッカー部の主将だったんだぞ!』等々言われていました。時には『死ね!』とも言われていた位です」
「ええっ!?それはいくらなんでも酷すぎですよ!完全にパワハラじゃないですか!?
…体育大って、そんなに偉いんですかねぇ?」
「大学出てる割には書類の文章が拙すぎましたけどね。体育大は、どうなんでしょうねぇ?
偉いというか、その方は偉そうな方でしたが。
…それで、どこから情報が行ったのか、理事長の耳に入ってしまったのです」
「理事長さんは、同じ建物には居ない方なのですか?」
「そうです。紅葉山の方にある、エレガンス・ノース病院の本部に居られる方なのですが、その方は普通に真面目な方で、パワハラ等が許せない方なんだそうです。
それで、先程の元上役が本部に呼び出されて、クビになりました」
「エレガンス…ノース病院…理事長…。まあ、その元上司さんは、因果応報ですねぇ。
理事長さんのお名前は?」
「理事長は奈良鏡子さんという女性の方です。
狂犬はまあ…そうですね。いろいろ爪痕は残しながら、辞めて行きました。
『お前なんて会社の奴隷になればいいんだ!』と、俺に捨て台詞を吐いて去って行きました…。彼の残した仕事の処理もあって、俺は残業時間が更に延びてしまい…」
「柏野さんの勤務時間は、何時から何時までなんですか?」
「8時30分から17時30分までなのですが、7時30分には出勤してろや、と事務長から言われていて、その通りにしてきました」
「…30分以上前の出勤は労基的にはダメだと聞いたことがありますが…」
「そうらしいですね。俺も友達に聞いた事があります。
事務長が、これがまた厄介な人で、やはり朝からずっと怒ってるか、怒鳴ってるんです…。
そして残業するのも、させるのも大好きといった変わった方で…。
もう一人の相談員はパニック障害になって休んでる程です…。
それで、皆からはブラック・デビルと呼ばれて恐れられています」
「…はぁ~、壮絶な職場ですね…。私も仕事柄、福祉の方々からの相談も受けるのですが、皆さん共通で人間関係のお悩みをお持ちなんですよねぇ」
…仕事柄?
「芹沢さんのお仕事って、何をされているんですか?」
「今は、まだ秘密です。最後にお教えしますね。ただ副業で、占い師もしております。その関係でいろいろな方の相談を聞くことがあります」
「占い師かぁ…。凄いですね。何占いなんですか?手相とか?」
「表向きには手相と人相、後はオラクル・カードを使います」
「表向き…と言うことは裏がある?」
「ええ。実はアカシック・レコードにアクセスします」
「…あの、LPとかシングルとか何とか、ですか?」
「それは普通のレコードですね。
私の場合は『宇宙の記憶の貯蔵庫』と言われているものにアクセスして、情報を視るのです」
「えっ!それって、それこそエスパーじゃないですか!?どうやってそんなこと…」
「生まれながらの能力なんです。祖母も、それが出来た方で、隔世遺伝で私が受け継いだんです」
「へぇ…。俺にはちょっと、わからない世界だなぁ。まあ、俺の職場の状況はそんな感じです」
「柏野さん?新しいお飲み物は何が良いですか?」
「同じのをお願いします、カモミール・ティーで」
「私、ワインを飲んでもいいですか?」
「ええ。どうぞ?芹沢さんは晩酌される方なんですね?」
「そうなんです。まあ、量は飲めないのですが。 ここからのお話はシラフではちょっと…」
「え?昨夜はそんなに凄い事が…」
「心配しなくても大丈夫ですよ。
ただ、今の柏野さんが聞いたら驚くでしょうけど…」
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