第4話

モールの駐車場へ車を取りに戻り、俺の行きつけの弁当屋へ向かった。


俺が知っている場所ということもあり、今は俺が運転させて貰っている。


「モールの駐車場に戻る時はヒヤヒヤでしたね…。何時、警備員に呼び止められるかとドキドキしました」と芹沢さんは胸に手を当てていた。


胸が…大きいんだよなぁ…。


そんな事を考えている間に、弁当屋に着いた。


ここは俺のアパートや職場に近くて、知り合いが経営している弁当屋だ。

安くて、量があって、美味い。


「いらっしゃいやっせー、ってケイじゃん!?

珍しいな日曜日に?」


「よお、レン。今日のおすすめは?」


「チーズ・イン・ハンバーグ弁当と、生姜焼き弁当だな。って、お前っ!偉いべっぴんさん連れてどうした!?彼女か?」


「いや…、俺にそんな余裕なかったのと、出来ないの、レンはわかってるだろ?

知り合いで、お世話になってる人だ」


「…お前、まだ…」


「…そうだ。情けない事にな」


レンは芹沢さんの方を見ながら頭を下げ

「お見苦しい所をお見せしちゃいましたね?こんな弁当屋ですが、味には自信があります。今日は特別におまけもしちゃいますから、好きなの買っていって下さい」と話した。



レンのおすすめの弁当を買って、芹沢さんのアパートへ着いた。


レンのヤツは、おまけで唐揚げと豚汁を付けてくれた。気前良すぎだ…。美人に弱いのは相変わらずだな。



「私がご飯作る予定が、逆にご馳走になることになっちゃいましたね~?」


「あんな事の後ですからね。本当に申し訳ありませんでした」


「いいんですよ~。生きてれば、いろいろありますからね。まずは食べましょうか?それからお話しましょう?」


「そうですね…。実は朝、アパートに帰る時に、バーに寄ってみたんです。

偶然、マスターと思われる人にお会いして、昨夜の事を聞いてみたのですが…、芹沢さんの個人情報に関わる事でもあるからと断られました。

俺は、貴女に…何か悪い事をしたのではないでしょうか?」


「違いますよぉ。逆に助けられたんです。そのお話も食事の後にしましょう?」



芹沢さんは生姜焼き弁当、俺はチーズ・イン・ハンバーグ弁当を食べる事になったが


「あの~…」


「どうしました?芹沢さん」


「…ハンバーグの方も食べたいんです~」


「もちろん、いいですよ。半分こしましょう?」


「それと…」


「はい?」


「一度には食べきれません~…」


「あ~、レンのヤツ大盛にしちゃったから。

残して、明日食べたらいいですよ?」


「そうします~。私、唐揚げ大好きなんですよねぇ~。レンさんもエスパーなのかしら?」


「アイツは美人に弱いだけです。そして俺はエスパーじゃないです。エスパーって、そんなにゴロゴロいるのかな?」


「美人って…。柏野さんもそう思ってるのかしら?」


「そりゃあ…。まあ…、思ってます」


「ありがと」





食後にハーブティーをいただいた。


カモミール・ティーで、心を落ち着ける作用があるとの事だ。


さて…「どちらからお話しますか?」と俺が聞くと「どうぞどうぞ!」と芹沢さんに促された。


ふむ…「レディ・ファーストと言いたい所ですが、今日の顛末の事もありますから、俺の方からお話しますね。

まず、千崎さん。あの三人の家族連れの若い方の女性なのですが、会社の先輩だったんです」


「だった、と言うことは辞められたのかしら?」


「ええ、つい1ヶ月程前に…、寿退社で」


「では、ちょっとチャラい感じの男性が、旦那さんなんですね?」


「そのようです。俺と関係を持っていた時は、一時期別れていたようなんです」


「復縁?されたんですね?」


「そうですね。俺も一時期別れた理由等は詳しくはわからないのですが、別れた時には職場中に話していましたので」


「…そんな!赤裸々に…わざわざ職場内で?」


「う~ん、彼女の性質?なんでしょうねぇ。それで別れていた時期に、俺は千崎さんから何度か食事に誘われたりしていました」


「…なるほど、次のターゲットで、柏野さんがロック・オンされたんですね?」


「それが…」


「どうしました?」


「ここからが、ちょっと…おかしい、普通では無い話になります」


「普通では、無い…?」


「そう…です。確か…三度目の食事の後に千崎さんを自宅に送って、俺はアパートに帰ったのですが…。間も無く玄関のチャイムが鳴りまして…千崎さんが来たんです」


「…?送って行ったのに、ですか?」


「そうなんです。俺もびっくりしまして…。

それで、取り敢えず部屋に上がって貰って、お茶を出そうとしたら……」


「…え?どうなったんですか?」


「…押し倒されました」


「ええっ!?」


「…更に、ここからが恥ずかしい…俺にとってはトラウマになっている事なのですが、…恥を忍んでお話します…。最終的な行為に及ぶ前に、彼女のスマホが鳴りましてね…」


「…今の旦那さんから…?ですかね?」


「そうです。その何日か前に地震があったんですよ。それで、元彼が「お前、大丈夫だったのか?」と言う電話だったようで…。千崎さんは急いで服を着て、帰ってしまいました…」


「あの…言い方が悪いかも知れないけど、生殺しってヤツですねぇ?」


「…はい。実はその前にもおかしな事は既に起こっていたんです」


「その前にも、ですか?」


「二度目の外食の後に、千崎さん宅へ呼ばれたんです」


「…それで?」


「彼女の母親から面接されました」


「面…接?ですか?」


「ええ。収入とか、乗ってる車だとか、学歴とか…。まるで査定されている様でした」


「…様でした、と言うより、その内容だと、完全に査定ですねぇ?」


「それで、千崎さんの母親からは完全にダメ出しを喰らいました。

収入が少なすぎる、家柄も良くない、貴方達はどこまで進んでるの?等々…。

約90分に渡り、個人面談的な説教を延々と受けました…」


「それは…レア・ケースですねぇ。仕事柄、いろいろな方のお話を聞くのですが…。

お母様が出張り過ぎなのでは…?

…それで、千崎さんと行為未遂の後は、どうなったんですか…?」


「…『なかった事にして』と言われました」


「…ふむぅ~…。なかなかにフリーダムな方ですねぇ?」


「ええ。けど、俺は好きになってしまっていましたし、正直、女性経験が無かったんです。

だから、彼女に聞いてみました…」


「なんて、聞いたんですか?」


「『なんで、あんな事したんですか?俺の気持ちを、考えた事ありますか?』って…」


「…どの様な返答でしたか?」


「『自分だけ傷ついたって思わないで!』と、逆ギレされました。もう、全く意味がわかりません…」


「…心無い…人ですね。自分から行動を起こしておいて…それは…あまりに無責任な言葉を…」


「…それで、俺はすっかり女性不信、女性恐怖症になってしまいまして。

と言うか、もっと恥ずかしい話で…『失恋鬱』だったんです。二年半程も…。

最近、ようやく回復した感じなんです。

その後は彼女も出来ず、現在に至ります。

作れる気もしませんし、もう…お付き合いも、結婚もしなくていいかな…と思っています」


「…そう…ですか…。ストーカーの件については、何故なんですか?」


「妹の誕生日プレゼントを買いに、今日行ったモールに行ったら、偶然に千崎さんカップルに会ってしまったんです。そしたら、彼女は『私をストーカーしてる!』って勘違いして…。翌日には職場中に言いふらされていました…」


「そんなぁ、自意識過剰過ぎですよぉ!」


「…まあ、千崎さんについては、そんな所です」


「ふ~む…。お茶を入れ直しますね?

少しブレイクしましょうか。そう言えば、柏野さんが買ってきてくれたケーキもありますもんね~」


「お気に召すかどうか…」


「アンジェに寄られたんですね!私もたまにコーヒー飲みに行くんですよ~。知り合いが働いているので」


「そうなんですね?まあ、お好きなのを選んで下さい」


芹沢さんが箱を開けたら「あっ」と言って固まった…。


「ん?どうしました?」


「…なんでも、ありません。私の一番好きなケーキが入ってたんで、ちょっと驚きました」


「何が、一番お好きですか?」


「ちょっと子供っぽいんですけど、プリン・ア・ラ・モードなんです」


「ああ、やっぱり。それを選んでよかったんですね。何となく、芹沢さんが好きそうなイメージだったのと、店員さんが勧めてくれたんですよ」


「男の店員さんでしたか?」


「ええ、高校生かな?落ち着いた雰囲気の男の子でしたね」


「…草森君だ」


「…?お知り合い、ですか?」


「ええ、私は常連なので、彼とも良く話したりします。以前、ちょっと助けられた事もありまして…」


「へぇ、世の中狭いですね」


「あの~」


「どうしました?」


「1個は多いんです~。半分こしません?」


「いいですけど…、取り分けるか、芹沢さんが先に半分どうぞ?間接キスになっちゃいますよ?」


「この歳で、そんなこと気にしませんよ~」


「…そうだ。気になってたんですけど、芹沢さんって、おいくつなんですか?」


「女性に歳を聞くなんて!」


「いや、だって俺と同い年位でしょう?俺は25です」


「25!?」


「えっ?」


「私も、てっきり同い歳位だと思ってたけど…これは…」


「なんか、マズかったですかね?」


「きっと…歳上は嫌いですよねぇ?」


「いえ?千崎さんも歳上だったし、あまり気にはしないかな?俺は…。

そもそも彼女作る気ないんで」


「む~、またそれか!…28なんですっ!私っ!」


「…へぇ…、ちょっと驚きました」


「間が、気になります!」


「いや、綺麗だし、可愛いし、素敵ですよ」


「今更、そんなお世辞言われてもぉ~」


「お世辞じゃありません」

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