始まり

淡い太陽の光で千秋は目を覚ました。

千秋の拠点は人気の少ない山奥にある小屋だ。

誰が作ったのかも、誰が住んでいたのかも知らない。

だが、小汚いベッドがあるだけで、千秋にとっては家だった。

千秋は木製のドアを開く。

澄んだひんやりとした空気が体に入ってくる。

早朝の雰囲気だ。

千秋は近くの小川まで歩いていった。

体と口内を清める。衣服ごと飛び込むと洗濯をしなくてもいいから楽だ。

しばらく川に浸かっていると、体が冷えてくる。

早朝の空気のせいかもしれない。千秋は急いで陸へ上がった。


「...」


小屋で風を凌(しの)ぐ。体調を崩すのは1番避けたい。

そのうち日が昇る。それまでは小屋で待機だ。



淡い空ははっきりとした暖色に変わり、気温も少し暖かくなった。

千秋は青黒く光った剣を鞘に収める。

時計は無いが、だいたいこの時間はAIが周回を始める。

今までの経験でわかっていた。

その時、後ろからメカメカしい関節を曲げる音が聞こえてきた。


「ニンゲン、ハッケン」


千秋の後ろで機械音声が聞こえた。

一見、人間に見えるが頭に空いた穴で違うことを確信する。

返事を返さずに千秋はAIに迫り行く。

逃げるのさえ許さない斬撃。AIはすんでのところで躱す。


「サイショノコウゲキハ、キキテカラ。ニンゲンノシュウセイデス」


得意げに話すAIへ突きを入れる。


「ギギッ!」


AIは悲鳴をあげる。

こいつらは意表を突かれる攻撃には弱い。

ひるむAIを逃がすことなく、甲殻を叩き切る。

切り落とされた頭は、宙を舞う。

千秋は、その行方を見守ることなく剣を鞘に収めた。

麓へと駆けていく。温かみのある人間を探すべく。



1000年も昔は、都会?と言われていたこの場所も、今では案の定、人の気配は無い。

錆び付いたビル街は、千秋を見下ろすかのように聳え立っている。

未だに古血の匂いが染み付いたこの場所は、居るだけでも吐きそうだ。

後ろから声が聞こえたのは、街に着いてから10分ほどたった時だった。


「おい、お前人間か?」


千秋は素早く振り返る。そこには、ガスマスクをつけたパサついた髪の男がいた。


「そうだ」


できるだけ短い言葉で返す。

この世界ではいつ死ぬか分からない。個人情報を伝える時も油断はできない。


「生き残りがいることは非常に素晴らしい。どうか俺に着いてきて欲しい」


男からの言葉に、千秋は目線を鋭くする。

男は焦って言葉を繕う。


「俺の言葉が信用出来ないのも無理はねぇ。じゃあ信用してもらうにはどうしたらいい?」


「...」


千秋は口ごもる。確かに今ここで男が仲間だと証明する方法は無い。

千秋は考え込んでから、答えた。


「わかった。ついて行こう」


「そうか。決してハグれないようにな。長旅では無いが色々とめんどくさくなる」


男は背を向けて歩き出した。

千秋は、少し距離をとって男の背中を追う。

10分ほど歩みを進めると、廃病院のような場所に着いた。


「俺らの拠点はここだ。そこそこ人はいるぞ」


男は呟きながら入口をくぐる。

そして、一室の扉を開けた。


「へへへへへ!私の勝ちー!」


「はぁ!?イカサマだろ!」


「強いねーミセル」


「そう声を張るな。隊長が帰ってきているのに気づかないのか」


4人の人間は、はっとし、すぐに隊長の方へ向き直った。


「隊長!すみません。ババ抜きが楽しすぎたもんで」


猫のような耳が生えた少女が言い訳をする。

隊長は苦笑いしながら返した。


「ああそうか。でも周りにはもっと気を配ろうな」


少女は「ひゃい!」と舌足らずな返事をした。

少女以外の3人は、隊長よりも、後ろの千秋に興味を抱いていた。


「後ろの少年は?」


メガネをかけた男が隊長に尋ねた。


「近くの都会にいた人間だ。名前は...?」


「千秋です」


「へぇー千秋くんかぁ。よろしく」


橙色で染められた髪をした男はゆるく答える。


「千秋くんも知らないこと多いだろうから自己紹介からしよう」


「ありがとうございます。あと千秋でいいですよ」


隊長は短く返事を返すと、自己紹介を始めた。


「俺はフレン。この集まりの隊長をはっている。よろしく頼む」


フレンは、胸を張って言う。


「私はエフィリス。猫耳が生えてるのは生まれつき!よろしくね!」


エフィリスは耳をぴくぴくさせる。


「あー次は俺ね。俺はマイリス。ゆるくやってまーす」


マイリスは橙色の髪をいじりながら、どうでもよさそうに言う。


「俺はダクター。以上だ」


ダクターは冷酷な雰囲気を醸し出した。


「ところでところで、君の自己紹介は!?」


エフィリスは迫り寄って質問する。


「あ...ああ、俺の名前は千秋。AIを殺すために生きてます」


「いいねー君みたいな人好きだよ俺」


マイリスはにやにやと笑いながら言った。

明るい空気で包まれた空間は、フレンの真剣な声色によって切り裂れた。


「この集まりについて説明しよう。俺らは寄せ集め、で集まったメンバーだ。AIを殺す活動と、人間を保護する活動をしている」


「そうなのか。最終目標とかはあるのか?」


「ああ。渋谷のAI占領を解くのが1番だな。だが、そんなに簡単じゃない。だから、ここで実力をつけているんだ」


フレンの言葉に千秋は頷く。


「そういえば俺だけ源氏名だよな。皆はどうして横文字の名前なんだ」


「あだ名みたいなもんだよ。俺だって本名はフレンじゃないさ」


「私もエフィリスってみんなに決めてもらったんだー!」


「俺は自分で決めたなー」


「同じくだ。人から付けられた名前なんてごめんだ」


フレンは少し時間を置いて、千秋に話しかけた。


「千秋にもあだ名を与えよう。何がいい?」


一番最初に声を上げたのはエフィリスだった。


「秋...だから『フォール』とかどう?」


マイリスはいじるように意見を出す。


「いやいや千のほうでしょ。『サウザンド』だって」


「ならまとめて『フォード』でいいじゃないか」


ダクターの言葉を千秋は渋々承諾した。


「じゃあ改めて『フォード』!よろしく!」


エフィリスは、満面の笑みでそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る