第38話 弔い
翌日。集合した際の大竹はいつも通りの表情を見せていたが、球場入りした途端に表情は険しくなり、勝負師のそれに変わっていた。
彼が投球練習をしている間、ラムジー監督が僕に話しかけて来た。
「久志、今日の悠馬は会見やキャンプとは全然違うけどこれが彼本来の姿なのか?」
「監督、今日の彼はいつもより気迫が漲っています。彼の友人が昨日亡くなりました。だから今日は必ず友人に勝利を届けたい気持ちが彼にいつも以上の気迫をもたらしているのです。」
「そうだったのか。よし、今日は必ず勝てるように皆に発破を掛けるよ。でも、今日の試合が終わったら、一旦日本に戻りなさい。近々にお別れの儀式が有るだろう?」
「お気遣いいただき、ありがとうございます。試合後に彼に伝えます。但し、離脱するかは彼の意思を尊重してもいいですか?」
「もちろんだ。君や悠馬の友人が天国に行けるよう、私も祈るよ。」
監督は、そっとハグをして、ブルペンを離れた。
僕も一旦ベンチ裏まで離れて、廣政に電話を掛けた。
「もしもし、廣政?南場のことなんだけど、告別式はいつかな?チームから離脱の許可が出たからさ。」
「いやいや、今日登板だろ?」
「今日は登板するよ。その後に離脱の予定なんだ。僕らとしても南場の見送りはしたいから。」
「そう言うと思ったから、実は南場のご家族に会ってお前らが来るかもって言ったらさ、告別式はいいからアメリカに留まって頑張ってくれ。アメリカで活躍する大竹君や三井君の姿を見せてもらうのが息子に対する一番の供養だからってさ。オフにお墓参りしてくれたらいいってよ。」
「そうなのか。分かった。じゃあ俺たちはアメリカに留まる。必ず日本の皆に、南場に活躍する大竹の姿を見せる。僕はそのために出来る限りのサポートをするよ。」
「おっしゃ、その意気だ、大竹にも宜しくな。」
大竹にはこのことは言わないでおこう。
僕はグラウンドに戻ると、監督にアメリカに留まる旨を説明した。監督も僕達の意思を尊重してくれた。
ヤンキー・スタジアムでの初登板。
大竹が投じた第一球はど真ん中に渾身の直球だった。球速はなんと百マイルを記録した。第一球から日本での最高球速を更新した。
その後も大竹は気迫の投球を続け、六回無失点と最高のデビューを果たした。チームも十得点と大量の援護をくれたお陰で初登板初勝利を記録した。
試合後、アイシングをし、メディアからの囲み取材を終えた彼と二人きりになると、無言でハイタッチした。互いに同じことを考えていたのだろう。言葉は要らなかった。
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