第37話 訃報

翌日、大竹から着信とメッセージが入っていた。

 「おはよう。九時から事務所行くけど、ポスティングの話をして来る。久志の話も今日するから。また終わったら連絡する。」

 一応球団にはそれとなく話はしていたので、そこまで拗れることは無いだろうが、果たしてどうなるか。

 大竹からの連絡を待つ間、ホテルの朝食バイキングに舌鼓を打ち、チェックアウトの身支度を済ませた。一応スマホをチェックしたが、まだ連絡は無いので一旦帰宅することにした。

 

 「ただいまー」

 「お帰りなさい。おめでとう!良かったね。」

 早速美春が祝ってくれた。

 「お昼どうしようか?お腹減ってる?」

 「そこまで空いていないよ。ゆっくりでいい。」

 「そっか。そう言えばさ、大竹くんの話ってどうなったの?」

 「今日大竹が球団と話をして、承認されたら決定。一応その話はそれとなく球団にもしてはある。」

 「球団は何て?」

 「先ずはシーズンが終わってからでないと。だってさ。」

 「そっか。一応引越しの準備もしよっか。」

 「そうだね。」

 その時、大竹から着信が入った。

 「もしもし?今話し合い終わった。ポスティングの許可貰ったよ。本人の意思次第だけど久志も一緒に行って大丈夫だとさ。」

 「そうか。良かったな。丁度美春ともその話をしてたところ。じゃあ来年から頼むわ。」

 こうして、大竹のメジャー挑戦が決まり、僕も通訳として彼のサポートをすることに決まった。不安が無いわけでは無いが、こんな貴重な経験を出来る機会は二度と無いかもしれない。それならば自分を信じて行くのみ。

 電話の後から美春と二人で急いで各種の準備に取り掛かった。

ポスティングの結果、ニューヨークヤンキースへの入団が確定。

 年明けには大竹夫妻と共にニューヨークへ渡り、球団と大竹との橋渡しに奔走した。キャンプインの頃には、ある程度落ち着いた。

 大竹はオープン戦でも好投し、開幕ローテーション入りを果たした。

 初登板前日。大竹夫妻と共に決起集会を兼ねて近くの日本食レストランへとやってきた。

 「カンパーイ。」

 ビールを喉に流し込む。美味い。新しい環境への適応でゆっくり酒を飲む機会が無かったこともあって、一層ビールが五臓六腑に染み渡った。

 「大竹くん、いよいよ明日だね。」

 「そうだね、緊張とワクワクで何かよく分からない感じ。」

 「昨日もソワソワするって言ってずっとテレビ見てたもんね。」

 「おいおい、あんまりそれは言わないで。」

 「アハハ。」

 宴は終始和やかに進んだ。

 帰りは、大竹の運転で自宅マンションに戻った。

 「じゃあ、明日十時にエントランス集合な。」

 「分かった、また明日。」

 別れ際、廣政から着信があった。少し離れたところで電話に出た。

 「もしもし三井?もしかしたら聞いたかも知れないけど…」

 「何が?」

 「南場が亡くなった。」

 あまりにも予想し難い知らせに、頭が真っ白になって言葉を失ってしまった。

 「三井?」

 「ごめん、ビックリして声が出なくなった。」

 「驚かせてごめんな。交通事故だってさ。」

 「そうか…大竹にはもう言ったのか?」

 「まだ言ってない。明日初登板だろ?流石にこのタイミングはどうかと思って先ず三井に先に伝えることにしたんだ。」

 「なるほどね。確かに今は避けた方がいいな。タイミングはまた考えるわ。」

 電話を切り、マンションの方に向きを変えると、すぐ側に三人が立っていた。

 「あぁ、まだ居たのか。」

 僕は白々しくやり過ごそうとしたが、三人には流石にお見通しだった。

 「大竹にはまだ言っちゃいけないことって何?明日のことは気にしなくていいから教えてくれ。分からない方がモヤモヤする。」

 僕は観念して、一連の詳細を話した。三人とも絶句し、やがて涙が溢れた。僕もそれに釣られて涙が溢れた。

 「明日は死ぬ気で投げるわ。」

 「無理はし過ぎないようにな。無理して怪我するのは南場も望んでいないと思うから。」

 「分かってるって。」

 決意を新たにした僕達は、ガッチリと握手し、解散した。

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