第34話 実現
「本日よりお世話になります。三井久志です。よろしくお願いします!」
「三井さんようこそ。よろしくお願いします。今年は新外国人のワトソン選手を担当してもらいます。」
「分かりました、頑張ります!」
「それでは早速…」
職員より、業務についての説明を受け、早速ワトソンに連絡を入れた。彼は僕を歓迎してくれ、これから色々頼るからねと言った。
諸々の手続きを終え、球団事務所を出ると、見覚えのある人物と目が合った。
「あれ、三井?」
「もしかして大竹か?」
「そうだよ。こんなとこで再会するなんて。何で事務所に来たの?」
「いや、明日からワトソンの通訳になるんだよ。」
「マジか!確かにワトソンの通訳が代わるって話はチラッと耳にしてたけど、三井だったのか。凄いな、こんなことあるんだ。」
「だって高校の時約束したろ?いつか一緒に仕事しようって。間接的だけど実現したよ。」
「そうだったな、ホントに叶えるなんてすげえよ。」
「大竹は今から何するの?」
「今から契約更改。来年オフにポスティング承認してもらえないかの交渉がメインだよ。」
「そっか、大事なやつじゃん。じゃあ頑張って。」
「今日この後は空いてる?」
「家帰るだけだけど?」
「じゃあ久しぶりに飲もう。話したいことはまだあるから。」
「じゃあ嫁に先に連絡させて。」
「あぁ、美春ちゃんだよね?怖いよー」
「やめい笑」
大竹が事務所に消えた後、美春に事情を説明した。彼女もそう言うことならと快諾してくれた。
一時間後、更改を終えた大竹と合流し、近くの焼肉屋に入った。
「更改は無事終わったの?」
「うん、案外あっさりね。来年優勝か沢村賞のどちらかを達成したら良いってさ。まあ、確かにどちらかは獲りたいと思ってるから俺もその提案を呑んだ。」
「そうなんだ。まぁ、可能性が出来て良かったじゃん。」
「ありがとう。それでさ、頼みがあるんだけど…」
「何?」
「もし、来年メジャーに行けることになったら、通訳として一緒に付いて来てくれないか?もし実現したら、俺達の約束が叶うし、茜も初めてのアメリカ暮らしのサポートをしてくれるなら安心出来ると思うんだ。」
「凄く興味があるし、行きたい。でも僕はまだライオンズにお世話になったばかりだし、美春とも相談しなきゃ。」
「やっぱりそうだよな。でも、検討はして欲しい。」
「分かった。まぁ、取り敢えず言ってた優勝か沢村賞はクリアしなよ。」
「おう、やったるわ。」
その後も僕達は昔話に花を咲かせた。
帰宅した僕は、美春に早速今日の出来事を話した。
「へぇ。大竹くんそんなに凄い選手になってたのね。うん、私もその提案は魅力的。でもこれから西武にお世話になるのに大丈夫なの?」
「正直その不安はあるから保留した。でもホントに実現しそうだったら大竹から球団に掛け合うらしい。」
「そこまでしてくれるなら、乗ったら?久志と大竹くんの約束は尊重したい。」
「ありがとう。」
まだ仮定の話だが、大竹との約束を果たす道筋が出来た。
僕は高揚感で中々寝付けなかった。
翌日から埼玉ライオンズの通訳としての活動が始まった。スタッフや選手とのコミュニケーションの橋渡しだけでなく、ワトソンのオフのサポートにも奔走した。
ある程度は前任者より引き継いでいたので把握はしていたが、実に仕事は多岐に渡った。
ある日はワトソンが新しい家電を買うからと家電量販店に同行し、それが終わると自宅で設置のサポートもする。またある日は彼の家族のサポートも行った。
毎日様々なサポートが求められるため、帰宅は毎日二十二時を回る。 体力的には大変だが、目標としていた仕事に従事出来る喜びもまた感じていた。
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