第30話 まさかの再会

「森永、早くしないと遅れるぞ!」

 「すまん、久志手伝って!」

 「やれやれ。」

 僕は大学二年生になった。すっかり東京での生活にも慣れ、友人も出来た。その一人が森永なのだが、とにかく遅刻癖が酷い。毎度彼の家に出向き、準備を手伝うハメになる。

 「よし、準備は万端だ。」

 「今度からは事前に準備しとけ。」

 急いで電車に乗り込み、新宿へ向かった。偶然にも僕と森永は職場は違えど新宿でバイトしている。

 大学とは反対の方角にグングン進み、駅に到着した。

 僕は南口へ、森永は歌舞伎町方面へ向かった。

 バイトを終え、スマホに目を通すと、森永からメッセージが届いていた。

 「お疲れ!歌舞伎町来れる?バイト終わったら連絡して!」

 「もしもし、今終わったよ。パチ屋行けば良いか?」

 「そだな、じゃあ待ってるわ。」

 歌舞伎町付近のパチンコ屋で森永はスマホを触って時間を潰していた。

 「おす!」

 「おう、行こうか。」

 歌舞伎町の中にある居酒屋に入った。

 「お疲れー。今日変な客いてさー…」

 酒が増えるにつれて森永は饒舌となり、バイト先の愚痴を吐き出して来た。まぁ、歌舞伎町でバイトの時点で客層が他のエリアに比べると違ってくるのは予想つくはずだが。

 僕も森永の話に付き合って飲んでいくうちに出来上がり、店を出る頃にはお互いに泥酔してしまった。

 千鳥足の森永は吸い寄せられるようにソープランドに入ろうとした。

 「森永辞めとけ。金無いだろ。」

 「大丈夫。今日給料日。」

 「今日使い過ぎたら来月しんどいぞ。」

 「行くんだよー。」

 泥酔の森永に無理矢理手を引かれ、店内に吸い込まれた。

 店内に入ってすぐに受付があり、システムの説明の後にシフトが空いてる女の子の紹介があった。

 森永は舐めるように女の子を吟味した。三分くらいして漸く指名する子を選んだ。

 店員が僕の方にも目線を向けてきたので、適当に左端の写真の子を選択した。

 待合室に入ると、二人ほど中年と思われる男性が黙って座っていた。

 森永はそんな空気はお構い無しに喋り続けた。

 男性達からの苛立ちを含んだ冷たい視線が突き刺さる。どうしようもなく会釈するしか無かった。周囲が目に入らないほど泥酔した男が果たしてちゃんとサービスを受けられるのだろうか。

 そうこうしているうちに男性達が呼ばれて二人きりになった。

 「おい、森永。大丈夫か?折角だからちゃんとサービス受けないと。」

 「おぉ、大丈夫、大丈夫…」

 真っ赤に染まった顔で笑顔だった。もうほっとこ。

 「三番の方準備が出来ました。」

 店員が森永を呼んだ。森永はゆっくり立ち上がって僕に手を振りながら消えていった。

 一人になり、落ち着かないのでスマホをいじったが、異様な静けさとタバコ臭、加齢臭が混じった不快な匂いで集中出来なかった。仕方ないので、待合室の中をぐるぐると目的もなく歩き回った。

 「四番の方、準備が出来ましたのでどうぞ。」

 いよいよ呼ばれた。改めて注意事項の説明を受け、部屋に通された。

 「こんばんは〜」

 茶髪ロングの女性が手を振りながら近付いてきた。適当に指名したのでどんな子かは把握していなかったが、中々に可愛い。当たりだ。しかし、女の子が近づいて来るにつれて、嫌な予感がした。…見覚えがあるぞ。

 僕は必死に記憶を辿るが、パッとは出て来ない。無理もない。目の前の女の子のメイクはかなり濃く、スッピンの面影は伺い知ることは難しい。しかし、顔の骨格や耳の形から、初対面とは思えなかったのだ。

 「久志くん?」

 「えっ何で僕の名前を?」

 「やっぱりそうだ。私のこと覚えてる?」

 「なんか見たことはある気がするがはっきり思い出せないんだ。」

 「酷い。美春だよ。」

 僕は驚きの余り大きく目を見開いて固まってしまった。

 「全く分からなかった。いや、君とは出来ない。チェンジする。」

 「え、何で?酷くない?」

 「そりゃ出来ないだろ?何で元カノから金払ってサービス受けなきゃならないんだよ。気まずいし。」

 「いいって、満足させるから。」

 「嫌だよ。店の外で話すならまだしも、サービスとかはゴメンだ。」

 美春の手を無理矢理振り解き、チェンジした。美春じゃなかったら誰でも良かった。

 結局まだ待機している女の子はいたのでその子にしてもらった。

 

 サービスを終えて店外に出ると、森永が先に待機していた。

 「ごめん、ちょっと遅くなったね。」

 「いいよ、何かあったか?」

 「いや、それがさぁ…」

 森永にことの顛末を話した。

 「そっか、そりゃ災難だったな。しかし、お前引き強いな。」

 「よせ。お前のせいやぞ。」

 「ふざけんな。気持ちよかっただろ?」

 「それは間違いない。」

 その後も僕達は馬鹿話で盛り上がりながら帰宅した。

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