第24話 大智
冬はあっという間に過ぎ去り、僕は三年になった。
この日から新入生が入部してくる。噂には大物選手が来るとあったが、誰のことだろうか。
新入部員達一人一人をジロジロ見ていると、一人だけ一際体格の良い部員がいた。
監督より集合をかけられて、ベンチ前に集合した。
一人ずつ自己紹介が進み、目を付けた少年の番が回って来た。
「東大智です。希望ポジションはピッチャーです。宜しくお願いします。」
どよめきと共に歓迎の拍手が鳴り響いた。何処かで聞いた事のある名前だし、顔も何となく覚えてる。でもはっきり思い出せない。有名だから覚えてるだけか。
「おい、お前ピンチじゃね?」
廣政が肘で小突いてきた。
「何で?」
「え?東知らんのか?アイツは全国大会で二刀流で大活躍してたから進学先が注目されてたんだぞ。で、何故か浦和第一ってね。」
「でもアイツ投手でしょ?」
「投げない時は多分野手で出るよ。」
「あぁ、アイツ左利きだから、外野か一塁…ん?」
「気付いたか?投げなくてもどっちかで出るでしょ。バッティングもエグいからな。」
石塚もいるし、監督の起用法次第で激戦区になる可能性が高い。メンバー外すら有り得る現実を認識し、野球人生でも一番の恐怖心を感じることとなった。
石塚の表情も窺ってみた。分かりやすく目がキョロキョロしており、動揺しているのが一発で分かった。
新入生の自己紹介が終わると、早速マシン打撃が始まった。僕は冬場の地道なトレーニングの甲斐もあり、更に飛距離が伸びて柵越えを連発させた。
上級生の打撃練習が終わると、一年も参加することになった。
流石につい最近まで中学生だったから、打球には軒並み迫力を欠いた。そして最後に東の番になった。
僕達は噂の大型新人の腕前を固唾を飲んで見守った。
東が軽く振り抜いた打球は、グラウンドのネットを軽く飛び越えた。僕達は驚愕で声を上げられなかった。
しかし、東はそんな僕達を尻目にネット越えを連発した。
打撃練習が終わると、グラウンドは静まり返り、その後の練習は活気の欠けたものになった。
週末。この日は練習試合だが、東はいきなり三番・一塁でスタメン入りした。
東は攻守に躍動した。守備では強烈な打球やショートバウンドの送球を何なく処理し、打撃では一打席目から本塁打を放った。僕は彼の勇姿をベンチから眺めることしか出来なかった。
二試合目。この試合は東が先発することになった。僕は五番・一塁でスタメン入りを果たした。
数少ないアピールの場である。僕の集中力は研ぎ澄まされていた。
第一打席から安打を量産し、第四打席。この打席で本塁打が出ればサイクル安打達成である。フルカウントからの六球目。すっぽ抜けた変化球がど真ん中に吸い込まれてきた。しかし、頭とは裏腹に身体が反応せず、見逃し三振を喫した。
結局、この打席をもってベンチに下がった。
東は初回から好投を見せ、完投勝利を飾った。
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