第22話 不審者

秋季大会後、僕達を取り巻く環境に変化が起きていた。

 秋季大会で躍動した大竹を目当てに、プロ野球のスカウトが視察に訪れるようになったのだ。無論、目当ては大竹だが、良いところを見せればついでに目に留まるかもしれない。

 都合の良い妄想だが、他の部員の士気も高まっていた。

 この日の練習を終えた僕は、大竹と帰ることにした。スカウトの件だけで無く、積もる話があるからだ。

 「なぁ、大竹。今日スカウト来てただろ?どんな話をしたんだ?」

 「まぁ、今日は初めてだったし、軽い挨拶くらい。」

 「ふーん。因みにどこのスカウトだった?」

 「ライオンズ。まぁ地元の球団だから元々見つかりやすかったのかも。」

 「すげぇじゃん。実際志望届とか出すつもりだったの?」

 「うーん、ホントは大学行ってからとか考えてたけど、俺母子家庭じゃん?母さんに負担掛かること考えたら高校からプロに行くのも親孝行かなとも思うんだよね。だからまだ何も気持ちは決まってないよ。」

 「そっか。まぁそうだよな。まだじっくり考えたらいいよ。」

 その後はたわいも無い話で盛り上がり、大竹宅で解散した。

 自宅が近くなってくると、遠くに黒い米粒が見えた。段々と距離が詰まり、米粒の詳細が見えて来た時、背筋に電流が走った。美春だ。

 金髪はくしゃくしゃと乱れ、鋭く吊り上がった目をしており、それに似つかわない露出度の高い服のアンバランスさが恐怖を駆り立てた。

 その恐怖物体は自宅側の電柱に鎮座していた。こちらにはまだ気付いていないようだ。

 一旦公園に避難し、どうすべきか頭を整理することにした。

 あの位置に鎮座されると気付かれずに帰宅は困難だ。かといって接触するのも怖い。親に連絡するにしてもどう言えばいいのか?おばさんに連絡したらまた喧嘩始めそうだし…

 考えがまとまらずに頭を抱えていると、足音が大きくなっていることに気付いた。

 顔を上げた途端、視界が恐怖物体に覆い尽くされた。

 恐怖で固まっていると、胸倉を思い切り掴まれた。

 「お前舐めんじゃねーぞ!何浮気しといて一丁前に振ってんだ!認めねーからなぁ。」

 「こんな言葉遣いをする品性の無さが嫌いなんだ。何故ここまで嫌な思いをしなきゃいけないんだよ?」

 僕自身も美春に鬱憤が溜まっていたようだ。考えるよりも先に言葉がすらすら出て来ていた。

 美春は半泣きになったが、尚も続けた。

 「だってショックだったんだもん。こんなに久志のことが好きなのに。」

 「あのなぁ、浮気とか特にしてないし、同級生のプレゼントを一緒に買いに行っただけなんだが。何回言わせんだ。」

 「そんなわけない!何で二人きり!」

 話が通じない。やっぱり彼女といるのはしんどいと確信した。

 「もうウンザリ。これ以上嫌いになる前に僕の視界から消えてくれ。今はもう嫌いだよ。」

 「そ、そんな…」

 泣き崩れる美春を背に僕は公園を後にした。

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