第21話 復帰戦

夏の大会の余韻がまだ残っていたが、早くも新チームが始動した。遂に僕達の学年が最上級生、即ち高校野球があと一年であることも意味していた。

 僕は相変わらずリハビリの日々。焦りは当然あったが今は辛抱するしか無い。

 リハビリが終わり、練習に参加出来たのは九月になってからだった。

 僕が不在の間に、石塚が練習試合で結果を残し続け、一塁のレギュラーを確固たるものにしていた。

 僕も食らいつくべく、日々必死にボールを追いかけた。

 そうして迎えた秋季大会のメンバー発表。

 エースは大竹。キャッチャーは南場。一塁は石塚。二塁は吉野。三塁は一年の鈴木。ショートは須永。レフトに一年の高橋。センターは石井。ライトに廣政。僕は控えに甘んじることとなった。

 薄々勘付いていたので僕は冷静だった。限られたチャンスを活かすのみ。

 

 秋季大会の初戦。先発の一年、野村が快投を見せたこともあり、七回コールドで余裕の勝利を飾った。僕の出場機会は無かった。

 二回戦。ここは大竹が圧巻の投球で完封勝ち。ここでも僕の出場機会は無く、コーチャーとして奮闘したため、声が枯れた。

 三回戦。相変わらずコーチャーとして声を絞り出した。

 試合は接戦となり、八回終了時点で同点だった。

 この場面で遂に僕に出番が回って来た。先頭の石塚に代わって代打だ。

 後悔しないためにファーストストライクを振り抜くと決めていた。

 相手の初球はカウント球の変化球。

 僕はフルスイングしたが、全くタイミングも合わずに緩いフライとなった。後続も倒れ、結局この回は得点できなかった。

 気持ちを切り替えて、裏の守備に回った。

 先頭打者の打球がバウンドしながら僕の方へ迫って来た。確実に掴んでアウト…とはいかなかった。僕の目の前でイレギュラーバウンドし、後ろにすり抜けていった。

 茫然と後ろを振り返ると、ゆっくり転がったボールは廣政が掴んでいた。

 僕はマウンドに向かい、大竹に謝罪した。

 「大竹、ごめん、次は確実に取る。」

 「大丈夫、抑えるから。」

 大竹の表情は普段の柔和な顔からはかけ離れた精悍なものだった。

 大竹を励ますつもりが逆に励まされた形になった。

 僕はそっと一塁に戻った。

 言葉通り、大竹はギアを上げ、三者連続三振に打ち取った。

 延長では、大竹の力投に触発されたのか、打線が繋がり、一挙三得点。裏も三者凡退に打ち取り、準々決勝進出。

 準々決勝では、先発の野村が空いて打線に捕まり、ビハインドを許す展開となった。

 打線も相手のプロ注目のエース、森本の前に手も足も出なかった。

 完封負けが迫った最終回、四点差を追い掛ける僕達は、先頭の南場が四球で出塁。一死後、須永の安打で一塁、三塁。ここで僕に代打が回って来た。

 直球の質が高く、打てる気がしないので、変化球狙いで粘ることにした。

 簡単に追い込まれてから、ファール、見逃しで何とかフルカウントまで粘った。ここまでの流れで直球を捉える確信が出来ていた。しかし、ここは無理せず満塁策を取る可能性も考えられたので、変化球狙いに切り替えた。

 森本が選択したのは読み通り変化球だった。但し、読み違えたのはその球がすっぽ抜けたことだった。ストライクゾーンに入ったその球を思い切り振り抜いた。

 打球は豪快な金属音と共に右中間を切り裂いた…が、相手センターが思い切り身体を伸ばして飛び込むと、白球はグラブに収まった。

 南場が捕球を確認してから三塁をスタートしていたため、何とか一点は返した。

 しかし、尚も三点差。追撃には点差が開き過ぎていた。後続が倒れ、ゲームセット。僕達の秋は準々決勝で幕を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る