第17話 茜

春季大会は一部の学生が観に来ていたこともあり、野球部の活躍は口コミで知れ渡っていた。そのため、校内でも少しだけチヤホヤされるようになっていた。

 例に漏れず、僕にも女子から声を掛けられるようになった。中でも同じクラスの小島茜からは頻繁に話しかけられるようになった。

 小島はバレー部で、スタイルは良いものの、坊主に近い短髪で如何にもスポーツ少女の出立ちなので、失礼かも知れないが女の子として意識したことは無かった。

 「三井くん、悠馬から聞いたよ。めっちゃ活躍したんだってね。」

 「ん?大竹と仲良いのか?」

 「ああ、だって悠馬とは幼馴染だよ。ママ同士が仲良いんだ。」

 「へぇ、初めて知ったわ。実は一回だけ大竹ん家に遊びに行って、お母さんにご飯ご馳走になったよ。」

 「へぇ、結構仲良いんだね。」

 「まぁ、同じ野球部だしな。ていうか、大竹の方が活躍してたけどな。」

 「ホントに?本人はぼちぼちって言ってたのに。」

 「あはは。謙遜してんなアイツ。」

 話しているうちにチャイムが鳴った。

 「三井くん、放課後って時間ある?」

 「?今日は部活休みだし多分大丈夫だよ。何で?」

 「い、いや、買い物付き合って欲しいの。」

 「はぁ。何で俺?」

 「詳しくは会ってから話す。お願いっ」

 小島さんは申し訳無さそうな顔で掌を合わせていた。

 「分かったよ。なんか切実そうだし。じゃあ五時に大宮駅集合で。」

 「ありがとっ」

放課後、自転車でいつもとは逆方面の大宮駅まで爆走した。小島さんは何故急に買い物に付き合わそうとするのか?真意は汲み取れていないが、切実さは感じられたので妙である。

 大宮駅に到着し、待ち合わせ場所に歩いていた。すると、後ろから肩を叩かれた。

 「三井くんっ」

 振り向くと、小島さんだった。お互い同じタイミングで到着したようだ。

 「ちょっと疲れてるよね?先にお茶しよ。」

 僕達はそばにあったドーナツチェーンに入った。

 席に着き、少しドーナツを食べたところで、小島さんが少し頬を赤らめながら話し始めた。

 「あのね、今日三井くんに来てもらったのは、悠馬へ誕生日プレゼント渡したくて。一緒に選んでもらいたかったんだ。」

 「大竹の?俺で大丈夫かな?めちゃくちゃ詳しいわけじゃないけど。」

 「そうなの?結構悠馬とは仲良いイメージあったけど。」

 「まぁ、部活とかでは結構話すけど。でも、事情は分かった。協力はするよ。」

 「ありがと。」

 「ちなみに大竹のことが好きなのか?」

 僅かばかりの沈黙が流れたが、小島さんは真っ直ぐ僕の目を見つめながら静かに頷いた。

 ドーナツチェーンを出た僕達は、雑貨屋に向かった。最近大竹はキーホルダーが壊れかけていると嘆いていたことを思い出したからだ。

 「悠馬ってどんなのが好きかな?」

 「んーとね、今使ってるのがこんな見た目のやつだから、この辺りから選ぶのが無難かも。」

 「なるほど。何色が良いかな?」

 「アイツはあんまり派手な色は好きじゃない筈。ネイビーとか多いかな。財布とかも確かネイビーだったな。」

 「そうなんだ。じゃあこれにしよっ」

 結局僕達はシンプルなデザインのネイビーのキーホルダーを購入した。

 帰り道、綺麗にラッピングされたキーホルダーを持つ小島さんの足取りは軽やかで弾んでいるように見えた。普段のボーイッシュなイメージからは想像つかないくらい女の子になっている小島さんはとても可愛らしかった。

 駅の駐輪場に到着したので、ここで解散することにした。付き合ってもいないのに長居するのは良くないと考えたからだ。

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