第16話 二回戦

翌日、二回戦は順調に勝ち抜けた。僕自身はノーヒットだったが、大竹が前日同様目の覚めるようなピッチングで相手打線を封じ込めた。

 翌週、地区大会の準々決勝は埼玉黎明。これまでは対戦に漕ぎ着けることすら困難だった強豪だ。

 シートノックを見るだけでも、格の違いを感じさせられた。

 一つ一つの所作に一切の無駄が感じられず、流れるようにボールが行き交っていた。

 僕達のシートノックの順番になったが、雰囲気に呑まれたのか、つまらないミスが頻発した。

 何とかノックを終え、漸くプレイボールに漕ぎつけた。

 初回は三者凡退に終わったため、打席が回ってくることはなかった。

 相手の攻撃。先頭打者の渡邊さんの投じた初球を捉え、いきなり三塁打を浴びた。

 二番打者は初球からスクイズを仕掛けてきた。打球はやや浮き上がり、一塁側に落下…する前に飛び付いてキャッチした。三塁走者は大きく飛び出していたので、体勢を整える前に素早く三塁へ投げた。間一髪のタイミングではあったが、アウトになり、併殺打が成立した。

 その後は相手エースと渡邊さんにより投手戦となり、スコアボードに米粒が並んだ。

 最終回。僕達の攻撃。二死一二塁で南場に打席が回って来た。簡単にツーストライクまで追い込まれた。

 三球目、四球目はボール。五球目以降はファールで何球も粘った。

 十二球目。緩い変化球をライト前に弾き返した。しかし、ライトは前進していたので、二塁走者は三塁を回れなかった。

 二死満塁で僕に打順が回ってきた。今日は良いところなくノーヒットだったので、気合が漲っていた。

 厳しいコースに三球続いて、カウントはツーボールワンストライク。

 四球目を前に僕は深呼吸した。今日の投手は困ったら緩い変化球でタイミングを外そうとする傾向にある。そう考えると次は変化球が来る。

 四球目は読み通り変化球が来た。しかも、すっぽ抜けたのか、真ん中付近に来た。

 僕は渾身の力でフルスイングした。

 捉えた打球は、曇り気味の空に消えていった。やがて、外野スタンドにポトリと落ちた。

 僕は興奮状態を通り越して逆に頭は冷静になっていた。

 本塁に辿り着くと、チームメイトが群がってきて、揉みくちゃにされた。

 ベンチでも揉みくちゃが続き、落ち着いた頃には攻撃が終わっていた。

 裏の相手の攻撃。相手打線も目の色を変えてきた。

 セーフティバントやエンドランなどで僕達の守備が掻き乱され、気が付けば一点差まで詰め寄られた。

 ここで投手交代。大竹が投入された。僕は大竹に声を掛けに行った。

 「思いっきり投げてな。」

 「ありがとう、勿論だよ。」

 試合が再開した。現在は無死一塁。大竹が投じた変化球を相手打者が捉えた。

 打球は二塁に飛び、併殺打が成立した。

 その後、無事に次の打者を三振に打ち取り、埼玉黎明に勝利した。

 格上への下剋上を果たしたこともあり、僕達の雰囲気は最高潮にたっしていた。

 この日は地元の新聞社から取材を受けることになった。

 取材中、記者の後ろから変顔で笑わせようとするチームメイトのイタズラを何とか堪えながら無事に取材対応を終えた。

 帰り支度を済ませて、バックネット裏に行くと、既にチームメイト達が陣取っていた。

 グラウンドでは、浦和緑台と竹浪の試合が始まったばかりだった。

 大竹の隣が空いていたので、そこに座った。

 「ナイピッチ。」

 「ありがとう。久志君こそホームラン凄すぎたよ。」

 「そだな。最近は調子良いよ。」

 そんなこんなしているうちに、試合は既に動きがあった。

 浦和緑台が序盤から連打であっという間に先制点を奪った。

 その後も投げては無失点、打っては毎回得点と、圧倒的な力の差を見せ、なんと五回コールドで勝ち上がった。

 僕達はその次元の違う強さに言葉を失っていた。

 先程までのお祭り騒ぎから一転、ピーンと張り詰めた緊張感が生まれていた。

 試合後、僕達は明日に備えて一目散に帰宅した。体調を整えて臨まないととんでもないことになると気付かされたからだ。

 帰宅後も緊張感を保ったまま夕食、風呂と済ませ、サッサと就寝した。

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