第11話 デート

翌朝、今日は部活がオフだったのでいつもよりゆっくり起床した。

 寝ぼけながらスマホを触ると、美春からメッセージを受信していた。

 「久志、昨日はドキドキしたね。またイチャイチャしよーね!今日は部活かな?試合応援しに行くから頑張ってね!」

 生憎ベンチ入りすらしていない。心の中でツッコミながら返信した。

 「ありがとう。今日は休みだよ!今起きたとこ。」

 返信してから、朝食を食べ、歯を磨き、シャワーを浴びた。

 部屋に戻り、スマホを手に取ると、着信とメッセージが無数に来ていた。

 怖くなって暫く放置しようとしたが、一旦話を聞こうと思い直し、電話を掛けた。

 「もしも…」

 「何で無視するの?浮気?寂しかったんだけど。」

 「いやいや、シャワー浴びたりしてただけだよ。」

 「何で?女に会うの?」

 「会わないよ。昨晩すぐ寝ちゃったからさ。」

 「ふーん、まぁいいけど。今から会いたいんだけど。今から行くから。」

 美春は僕の返事を待たずに電話を切った。

 三十分後、インターホンが鳴った。何やら母と話し込んでいた。母がニヤニヤしながらリビングから出ていった。

 外に出ると、バッチリメイクの美春が立っていた。

 「久志くんだぁ。ふふふ。」

 美春は人目も憚らず抱きついてきた。

 「は、恥ずかしいから一旦中に入って。」

 「え?お出掛けするんだけど。

 早く準備しなさい。」

 急いで準備を済ませて、家を出発した。

 「今日はどこ行くつもりなの?」

 「んーとねー、池袋!水族館行きたいんだ。」

 「なるほどね。」

 「えー、何かノリ悪い!」

 美春は僕の腕にしがみつきながら駅まで歩いた。

 電車で池袋まで移動し、水族館に到着すると、既に長蛇の列が出来ていた。

 待っている間、美春は恋人繋ぎをしながら上目遣いで見つめてきた。幼馴染だからあまり意識することは無かったが、やはり可愛い。

 漸く館内に入場し、海洋生物を鑑賞した。美春は終始テンションが高く、キャッキャしていた。特に海月を好んで鑑賞していた。

 水族館を出た後は、ランチを楽しみ、ショッピングに付き合った。

 様々は服を試着しては似合うか確認してきた。本人的には地雷系の格好を好んでいるようだったので、地雷系の服をプッシュした。

 日も暮れてきたので、そろそろ帰ろうと駅に向かっていたが、美春が服の裾を掴んできた。

 彼女の方を振り返ったが、何も言葉を発することはなかった。その代わり、瞳を潤わせ、上目遣いで頬を紅色に染めていた。

 僕はその言葉に出さない意思を感じ取り、そっと抱き寄せ、唇を奪った。しかし、彼女の表情はあまり変化は無かった。

 とはいえ、僕達はまだ高校生と中学生だ。小遣いも底を尽きてきたし、ホテルに入る訳にもいかない。

 渋る彼女を肩に抱き寄せて宥めながら帰ることにした。

 行きとは異なり、彼女は不満気な表情を浮かべ、全く喋ることは無かった。

 最寄駅に到着し、帰路に着く際にも会話は無かった。

 このままだとまずいと考えた僕は、いつもの公園に腰掛け、話をすることにした。

 「どした?ずっと話してくれないけど?」

 「…」

 「どうしても話したくないならいいけど、何か嫌なことあったら話して欲しいな。」

 「…」

 「…正直何となく察しているけど、それが見当違いだったら恥ずかしいから話して欲しい。」

 「…当たり。」

 「…?…ホテル行きたかった?」

 美春はコクリと頷いた。

 「やっぱりそうか。ごめん、恥ずかしい話小遣い無くなってたし、それに僕らまだ高校生と中学生だからどちらにせよ無理だったよ。こんなこと言っても仕方ないけど。」

 「関係ないの!」

 彼女は僕の身体を強く抱き締めて来た。その力は絶対に離さないと言う強い意志が感じられた。

 彼女は僕の身体にしがみついたまま前日と同じ場所に移動した。そしてそのまま唇に吸い付いて来た。

 僕はもうなすがままだった。彼女は今日一日の疼きを爆発させていた。

 やがて冷静になった時には、夜も更け、辺りはすっかり人や車の通りが少なくなっていた。

 自宅に到着し、別れ際、美春は再び唇に吸い付いた。そして、名残り惜しそうに手を振りながら離れていった。

 家に入ると、母が朝同様ニヤニヤしながら僕の顔を覗き込んでいた。

 「久志、美春ちゃんとのデートは楽しかったかい?」

 「あはは…」

 僕は愛想笑いでその場をやり過ごした。

 部屋に戻り、ベッドに横たわると、色々な意味で疲れたのか、すぐに眠ってしまった。

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