第10話 激情

ご飯を食べ終え、自宅へ帰る道中、目の前に見覚えのある女性とすれ違った。振り返ると、その女性は僕と同様に振り返っていた。

 「久志くん、何で無視するの?」

 その声を聞いて美春だと分かった。

 「美春か。派手過ぎて流石に分からん。」

 「幼馴染なのに?酷い。」

 美春は物凄い勢いで僕との距離を詰めてきて、上目遣いで見つめてきた。

 金髪ロングの髪型に、青のカラコンが入った目、色濃く描かれたアイライン。可愛いけど、昔の美春の面影は全く感じられなかった。

 「いやぁ、やっぱり別人だわ。こりゃ気付かん。」

 周囲の目が気になりだしたので、いつもの公園に移動した。

 美春は僕の左手の上に手を重ね、微笑を浮かべながら顔を僕の肩に沿わせてきた。

 幼馴染とはいえ、女性に顔を近づけられた経験すら無かったので、ドキドキして美春の顔を見れなかった。

 「久志くん、こっち見て。」

 恐る恐る顔を向けると、美春は躊躇なく唇を重ねてきた。甘い香りも相まって脳に電流が走った。唇を重ねた時間が凄く長く感じられた。

 薄ら目で美春の顔を覗くと、瞳を閉じて長い睫毛が見えた。その顔は幼い頃の美春の面影が感じられ、タイムスリップしたような懐かしい感覚になった。

 やがて美春は僕から唇をそっと離し、僕の左腕を優しく包み込みながら愛おしそうに見つめてきた。

 可憐で艶やかな彼女を目の前に理性のダムは決壊寸前だったが、唐突に公園の外から豪快な犬の鳴き声が聞こえてきたことで正気を取り戻した。

 「美春、どうしたんだ急にキスしてきて。」

 「だって好きなんだもんしょうがないじゃん。」

 美春は少し頬を膨らませた。

 「えっ…何で?」

 「この前お母さんと一緒に話してくれたじゃん?男らしいなって。」

 「いや、でも昔からお母さんとは知り合いだし、口利いていないって言ってたら心配じゃん?」

 「そういうとこだぞ?」

 美春は僕を抱き寄せると再び唇を奪ってきた。

 先程よりも強くホールドされ、唇を重ねるではなく吸い付いてきた。

 流石に我慢出来ずに僕は彼女の舌を吸った。

 僕達は遊具の陰のスペースに移動し、激しく身体を重ね合わせた。

 一連の流れが終わる頃には、時刻は十時を回っていた。家からも着信があったので、渋々帰ることにした。

 別れ際、美春が僕に密着してきた。

 「ずっと一緒だよ?」

 と耳元で囁くと、頬に口付けし、手を振りながら帰っていった。

 特にお互い告白もないまま、既成事実により恋人関係となった。まあ、幼馴染だし、今更特別な言葉は必要無いだろう。

 薄ら聞こえる虫の鳴き声をバックに、月を見上げた。

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