第9話 大竹
秋季大会当日。気乗りしないまま球場入りし、ベンチ入りメンバーの補助をせっせとこなしてアルプススタンドに移動した。
試合は序盤から投手戦となり、七回迄スコアレスで進行した。
八回、相手の先頭打者の打球がエースの渡邊さんの右太腿に直撃した。渡邊さんは苦痛に顔を歪めた。南場や内野陣がマウンドに集まり、状態の確認が行われた。渡邊さんベンチに向けて丸サインを作ったため、続投することとなった。
しかし、この試合冴え渡っていた渡邊さんの制球が乱れ、気が付けば二死満塁となった。
南場がタイムを取り、渡邊さんと何やら言葉を交わし、プレーが再開した。
渡邊さんは渾身のストレートを投げ込むが、相手打者もファウルで粘る展開が続いた。アルプスから見ていても渡邊さんは大きく肩で息をしており、疲労は明らかだった。
そして投げ込まれた十三球目。相手打者のバットが空を切…らなかった。金属音と共に白球が風を切り裂いた。
打球はセンターとライトの間を突き抜け、あっという間にフェンスにぶつかった。
結局走者が全員ホームインし、三点ビハインドとなった。
終盤に許した先制点が最後まで響き、我が校は初戦で敗退した。
試合後のミーティングでは監督が労いの言葉を掛けたが、メンバーは敗戦のショックからか殆ど頭に入って来ないように見えた。
道具を片付け終える頃には共にベンチ外メンバーの大竹と僕以外は既に帰宅していた。
「何かあっという間に終わったな。」
大竹がボソッと呟いた。
「ホントそうだよな。夏から一生懸命練習しても一瞬で終わるもんな。」
「なあ、久志。来年の夏は絶対に二人ともレギュラーになろう。二人で特訓しないか?」
「全然いいよ。でもお前ピッチャーだろ?一緒に何しようか?」
「プロ野球マスターだよ。」
「ゲームじゃねーか!」
大竹はニヤリと悪魔の顔をした。
「配球の研究だよ。」
「乗った!」
確かに今は余り練習が気乗りしなかったので大竹の誘惑に乗ることにした。
大竹宅に到着すると、早速ゲーム機の電源をオンにした。
そこから僕達は配球の研究と称して試合を重ねた。
暫くして、ドアがノックされた。
「三井君、折角だから晩御飯食べて帰ってね。」
声の主は大竹の母だった。
「あぁ、わざわざありがとうございます。いただきます。」
「もうそんな時間か。またやろうぜ。」
リビングに移動すると、既に料理が沢山用意されていた。
お腹が空いていたので、僕と大竹は夢中で掻き込んだ。
「二人ともお腹が空いていたのね。まだお代わりあるから食べたかったらどうぞ。」
「すみません、いただきます。」
「いいよ、高校生はお腹が空くよね。私も高校の頃はバレーボールしてたからよく食べてた。」
「そうなんですね。どうりでお母さんも悠馬くんも背が高いと思ってました。」
「ふふふ。確かにそうね。まぁ、お父さんがいないから食費は大変だけど、体が資本だからね。」
「あっ、そうなんですね…」
僕は何と返したらいいか分からなくなり、黙り込んでしまった。
「まぁ、親父がいない分、自由にやってるよ。」
重苦しい空気を感じたのか、悠馬が明るく返した。
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