第4話 美春
翌日以降、僕を含むベンチ外メンバーはメガホン片手に応援練習に勤しんだ。メンバーに入れない悔しさ、練習が出来ない歯がゆさを声に込めた。
練習が終わる頃には、僕の声はすっかり枯れ果ててガラガラになってしまった。のど飴を舐めて喉を癒やしたが、気持ちはすっかり吹っ切れていたのでのど飴同様スッキリしていた。
「久志、今日すごかったな。」
帰りに南場が声を掛けてきた。
「まあな、今は応援を頑張る。
お腹が空いてきたので、コンビニに寄り、ホットスナックにかぶりついた。
お腹も満たされたので、改めて自転車を爆速で漕いだ。
「おい、早すぎるぞ!」
いつしか南場を大きく引き離してしまっていた。
南場と別れて、自宅までの間の公園に差し掛かると、一人の女の子が俯いてベンチに腰掛けていた。
そのまま通り過ぎても良かったが、何故か気になり、自転車を公園に停めた。
恐る恐る近づくが、全く気づく気配がない。近付いてみると、俯いた女の子からはすすり泣く音も聞こえてきた。
「大丈夫?」
恐る恐る囁くように声を掛けた。女の子は一瞬ビクッとして顔をゆっくり上げた。
「久志くん?何でここにいるの?」
「僕のこと知っているんですか?」
「え?美春だよ。何で分かんないの?」
「マジで?ホントに分からなかったわ。変わりすぎ。」
「えー何で。久志くんなら分かってくれると思ってたのに。でも、可愛いでしょ?」
「まあ、可愛いっちゃ可愛いけど…」
僕はこの女の子と顔見知りだった。というより、幼馴染である。学年こそ一年下だが、今の実家は隣同士で、小三で引っ越して来てから家族ぐるみの付き合いをしていた。
ただし、中学に入ってからは互いに思春期に入ったこともあり、何となく疎遠になっていた。しかし、少し会わない間に美春は驚くほど変わっていた。
髪は金色に染まっていたし、アイメイクもバッチリと決まっており、肌は小麦色となっていて、完全にギャル化していた。
「しかし、何で泣いてたの?」
「えーと…」
美春は明らかに言うことを躊躇って俯いたままだった。
「まあ、無理して言うことないけどね。ただ心配だっただけ。」
「うん、ありがと。」
暫く沈黙の時間が続いた。僕はどうしていいか分からなくなってきたので帰ろうとした。しかし、美春が制服の袖を掴んできた。
「ヤダ。もうちょっと一緒にいて。」
美春の目は潤んでいた。強気そうな見た目とは裏腹に、昔のようなどこか弱々しい美春の面影を窺わせた。
一旦ベンチに腰掛けたが、再び沈黙が続いた。その空気に耐えきれず、美春に話しかけた。
「あのさ、やっぱり何があったか話してほしい。話しにくいのは分かるけど。」
美春はしばしの沈黙の後、ゆっくりと語り始めた。
「えっと、簡単に言うと彼氏に浮気されてた。さっき発覚して、ムカついて彼氏の家から出てきたの。」
「マジか。じゃあ彼氏の家はここから近いの?」
「近いよ。歩いて五分もないくらい。」
「そっか。辛かったんだな。」
「うん。何かもう全て嫌になった。親とは毎日喧嘩で帰りにくいし、最近は彼氏の家に入り浸っていたの。」
「そうだったんだね。親御さんとはやっぱり見た目のことで揉めてるの?」
「うん。まだ中学生なのにって。分かるけど可愛い格好したいし、勉強めんどくさいし、納得いかないの。」
「そっか。今日はどうするつもりだったの?」
「うーん、家に帰るしかないかな。」
「そっか。ならもう遅いし、気をつけて帰りな。それか、一緒に今日は帰ろうか?」
「いいの?ありがとう。」
帰りの道中、話足りなかったのか、美春は彼氏やご両親の愚痴を延々と話し続けた。
程なくして美春宅に到着した。
「今日はありがとう。できたらラインを交換したいんだけど。」
「ああ、いいよ。」
疎遠になっていたのもあって、ラインはおろか電話番号も知らなかったので併せて交換した。
美春が手を振ってきたので、僕もそれに応えると、美春は名残惜しそうに家の中へ消えていった
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