後ろの席の人が気になる

@nemurino

第1話

 席替えをした。後ろの席は私より身長が10センチメートルほど高いロングヘアの美人だった。名前は確か凛子さん。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花とはまさにこのような人のことを言うのだと思った。

 授業中凛子さんは私の髪で勝手に遊んだり、話しかけたりしてきた。人に構われること自体慣れていないのに、ましてや美人に構われると余計に緊張してしまう。しまいにはその原因を作っている美人に耳が赤くなっていることを指摘され、耳元で可愛いね等と言われる始末だ。その後からか私は凛子さんと目が合うだけで何故か鼓動が早くなった。きっと赤面でもしていたのだろう、私を見るや否や微笑み私に抱きつこうとしてきたから全力で手を前に出し拒否した。何故ならこの心臓の音を聞かれるわけにはいかないからだ。しかし力の弱い私がかなうわけなく、私は凛子さんの腕の中にいた。硬直した私の頭を撫でながら凛子さんは可愛い、可愛いと言ってきた。今度は自分でもわかるくらい赤面した。心臓の音が煩い。そんな私に追い討ちをかけるように凛子さんは私の耳元で可愛いねと囁いた。その時私は絶対この人わざとやっているに違いないと思った。

 昼食の時間、私は1人で弁当を食べていた。しかしそれは昨日までの話。今日は凛子さんと一緒に弁当を食べている。というより勝手に私の机の前に椅子を置き、私と対面した状態で弁当を食べていると言った方が正しいような気がする。何故か目が合うだけ赤面してしまうため、凛子さんの顔を見ないようにしながら弁当を食べた。幸い弁当が目の前にいる人の顔より下にあるため、俯いていても問題なかった、筈。早く食べ終わってしまうと手持ち無沙汰になってしまうため昼食の時間いっぱい食べようとゆっくり食べていると、先に食べ終わったであろう凛子さんが頬杖をつきながら私を見つめていた。俯いていてもわかるほどに凛子さんは私を見つめていて、それが原因なのかはわからないけれど、目を合わせたわけではないのに私は赤面していた。そんな私を見て凛子さんはまた私に悪魔の言葉を囁く。昼食の時間あと5分を残して私は弁当を完食してしまった。たったの5分だけれど、私には5分以上の時間に思えてしまう5分。早くこの時間が終わらないかと思って俯いているその間も凛子さんはずっと私を見つめ微笑んでいる。正直赤面した顔を見られるのは恥ずかしいから早く自分の席に戻ってほしい。どれくらいたったのだろうか、昼食の時間の終わりを告げるチャイムが鳴ると凛子さんは自席に戻って行った。この理由もない緊張から解放された私は胸を撫で下ろし、次の授業の用意をした。

 午後の授業中は何故かずっと凛子さんの顔が頭から離れなく、授業どころではなかった。気がついた時には帰りのHRが始まる時間になっていた。担任が教室に入り、挨拶をする。私は早く帰りたかった。担任が明日の連絡事項等を話し終え、もうすぐ放課後のチャイムが鳴ろうとしていた。チャイムが鳴ると同時に担任が号令し、皆で帰りの挨拶をした。何の部活にも所属していないのでそのまま真っ直ぐ家に1人で帰ろうと教室を出ようとしたら、後の席の凛子さんに呼び止められ、一緒に帰ることになってしまった。

 学校からの帰り道、いつもは1人で歩いている帰り道。だけれど今日は違う。隣には目が合っただけで赤面してしまう相手がいる。何故目が合っただけで赤面してしまうのか。それは凛子さんが美人だから、きっと私だけではなく他の人も凛子さんと目が合うと赤面してしまうに違いないと思うことで心を落ち着かせた。色々話したが正直何も頭に入っていない。もうすぐで私の家に着く。やっとこの不思議な緊張から解放される。別れ際、凛子さんは私の今日の言動の理由について核心をついてきた。そう言われるとなんだかそんなような気がして腑に落ちたが、それと同時にその事実にもっと赤面してしまった。




 ――「私のこと好きでしょ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

後ろの席の人が気になる @nemurino

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ