コスバのJK - スピーカー・オブ・サブスタチュー - その8


 こちらの言葉を都合良く解釈して、どこかの時代の誰かの開拓能力を身につけた怪異JKたちを見据えながら、私はスマホを取り出す。


 私はスマホの画面を見ずに、Linkerを立ち上げると、フレンドリストから綺興ちゃんを選択して、ビデオ通話モードで呼び出した。


「とりあえず。店長さん、店員さん。確認しますけど……このお店のモノならびに、従業員に対してはいかなる手段を持っても傷つけるコトは不可能ですよね?」

「何を言って……」


 戸惑う店員さんの口元に手をやって制して、店長さんがうなずく。


「はい。はいはい。その通りです。

 今までトラブルが無かったので知られていませんが、基本的にこのお店とお店のモノ、そして我々従業員は、いかなる手段によっても傷つきません」


 まずはお店のルール定義。

 曖昧なお店だからこそ、名付けの要領でルールを定義すればなんとかなると思ったんだけど――店長さんが乗ってくれて助かった。


「それでもさぁ、邪魔してくれたお前は従業員じゃないから関係ないじゃん!」

「さんざん邪魔してくれちゃってさぁ! でも逆転は出来た! この植物を作り出す能力があれば、あんたをヤれるからさー!」

「恐らく歴史上のJKにおける最強の能力者が使ってたやつだし!」

「さらにはそのJKの相棒であるJKの格闘技もマスターしたし! いまやアタシら達人だぜ!」


 イキがる二人に、私はキッパリと告げてやる。


「いやそれ無rぐぅぅ……!?」


 そのつもりだったんだけど、足下から突然伸びてきた植物のツタに絡みつかれ、口を塞がれてしまった。


「言わせねぇからッ! 迂闊に口を開かせたら、どうせこっちの動きを邪魔するコトほざくだろッ!!」

「そのままボコってやるから、大人しくしててよー?」


 あ。これはマズい。


「怪我したくなかったら下がっててよ店員さん」

「アタシらの操る植物にえろい感じ絡みつかれたあいつを見て、下半身元気にしてる分には問題ないけどさ」

「むー!!」


 どうして、私はこう……変な感じに巻き付かれたりするのかな!?

 めっちゃ胸を強調するような絡みつき方じゃん!


「それにしてもお姉さん、結構良い身体してんじゃん」

「噂を利用してお前の存在自体をえっぐいくらいエロい怪異に変えてやってもいいよな」


 本当にもう! どうして私を襲う連中ってエロ方面に行ってしまうのかッ!


「でもその前にサンドバッグな?」

「格闘技最強系JKのチカラでぶん殴ったら、どこまで耐えれる?」

「むー! むー!!」

「店長さんと店員ちゃんがリョナ性癖に目覚めちまう程度にはソフトにボコってやるからさ」


 いやぁ……それは勘弁願いたい。

 正直、エロはまだなんか大丈夫なんだけど、リョナ方面になっちゃうと、もっとイヤだな!?


 痛いのも苦しいのも勘弁願いたい。

 まだエロ方面で責められた方がナンボかマシだよ!?


 ……いやマシかな? どーだろ?

 どっちにしろ今がピンチであることにはかわりないんだけどね!


「むーむーむー!」

「無駄無駄。例え言葉が発せたとしてもさ、さっきは生者がいたから通用しただけ!」

「名付けや定義付けってのは、生者の聞き手の認識を変えるような状況じゃなきゃ、何の役にも立たないんだから……大人しく殴られな!」


 怪異のJKが、最高に高ぶったサディストの笑みを浮かべた直後――


《なら生者が言葉を発し、聞いているなら問題ないよね》


「え?」

「あん?」


 ――私のスマホから、綺興ちゃんの声が響く。


語らいを代理スピーカー・オブする女子高生・サブスタチューが模倣出来るコトっていうのは、一般の女子高生の範疇の話でしょ? 開拓能力者なんていう一般から外れたチカラは使えない》


 一般的な女子高生。女子高生のパブリックイメージ。

 この怪異はそれを体現した影法師であることを、綺興ちゃんがキッチリと定義する。


 それに乗っかるように、今度は所長さんの声が聞こえてきた。


語らいを代理スピーカー・オブする女子高生・サブスタチューはあくまで噂を語る怪異。

 語らいを代理スピーカー・オブする女子高生・サブスタチューが、JKという言葉のパブリックイメージから生まれた影法師である以上、そこを逸脱するような超能力や超技能なんて使えない》


 さらにはトラちゃんとハナちゃんの声も聞こえてきた。


《そもそも美人過ぎるJKとか超高校級JKとかJKにしてすでにプロとか達人級JKとか、そういう人って……一般的な高校生じゃないし》

《大会優勝する高校生とか、アイドルやインフルエンサーになってる高校生とかも、おんなじだよね。普段が一般的な高校生であっても、そのチカラを発揮する時だけは一般の高校生とは言えないワケだし》


 言葉の途中で、ドライアドのような影がゆっくりと消えていく。


「そんな……」

「どこから……」


 ドライアドのような影が消えるとともに、私に絡みついていたツタも消えていく。

 解放された私は自分のスマホを二人に見せた。


「生者が聞き手と語り部なら、最初からいたってコト。JKのクセにこれに気づかないとか、見た目通り、アタマ平成?」

「こいつ……」

「何気に口がわりぃな!?」


 いや、それをこの子達に言われたくないんだけど!?


《わたしたちが語って聞ければ問題ないでしょ?》

《アリカさんやっぱすごい人だったじゃん》

《アリカさんあとでID交換しよー!》

《おまけ程度だが、オレもいる……》


 やっぱり所長さんいるね。

 これなら多少ヤバい橋渡っても、所長さんに助けてもらえるでしょ。


 すでにやばい橋? まだまだやばいってレベルじゃないから。さすがに銃で撃たれたりするとやばいけどさ。こいつらなら大丈夫。


「それで? 語らいを代理スピーカー・オブする女子高生・サブスタチューのお二人は、まだ私とやりあう気あるのかな?」


 私の問いに、二人で一つの怪異たる語らいを代理スピーカー・オブする女子高生・サブスタチューは、肩を落として、さっきの席へと戻っていくのだった。


 うん。なんか私何もしてない気がするけど、私の――私たちの勝ちだよね!



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