コスバのJK - スピーカー・オブ・サブスタチュー - その7
私は後ろ頭を掻きながら、やや不敵に笑って見せる。
そして怪異化した『噂のJK』へと、告げてやることにした。
「そろそろ二人を解放してくれないかな?
そもそも、貴女たちという怪異に、他人を操ったり、言葉を実現させたりするような能力はないはずでしょう? ねぇ、
「何を言って……!?」
ハナちゃんに取り憑いている方が何か言う。
だけど、それを待っていたとも言えるかな。
「反応しちゃったねぇ
それだけで、綺興ちゃんも店長さんも理解してくれたらしい。
「
そもそも
私がそう宣言すると、続くように店長さんが告げる。
「
お喋りをするという怪異としての動きをする時以外、
さらに続けて、綺興ちゃんが、私と店長さんの言葉を一つに纏めて復唱した。
その上で、綺興ちゃんも付け加える。
「そもそも
綺興ちゃんがそれを口にし終える頃には、トラちゃんとハナちゃんの身体からもこわばりのようなのが無くなっていった。
「二人とも自由に動けそう?」
「えーっと、はい」
「大丈夫そうです」
「じゃあ、離すね」
二人を掴んでいたウルズから手を離させる。
「アリカさん。これで、出れる?」
「出れると思うんだけど……」
ハナちゃんにうなずくと、横にいたトラちゃんが恐る恐る、開いた自動ドアへと手を差し出した。
するとピンクと紫が混ざるマーブル模様みたいな波紋が広がりながらも、彼女の手は、それに遮られることなく店の外へと出れたようだ。
「中途半端に手を出すと、外から見たときに手が宙に浮いているように見えるだろうから、ささっと出た方がいいと思うよ」
「それ映えそうじゃね?」
綺興ちゃんの言葉に、手を外へと出したまま、トラちゃんが目を輝かして振り返る。
それに、ハナちゃんが首を横に振った。
「ただの超怖いホラーだから。映える前に引かれるって」
「私もそう思うかなー」
「だよねー」
横で私が同意すると、ハナちゃんは笑いながら、トラちゃんの手を戻した。
「綺興ちゃん」
「うん。二人とも、一緒に出よう」
二人に声を掛けたあと、綺興ちゃんはカウンターで、手持ち無沙汰している女子店員さんへと頭を下げた。
「さっきはひどいコト言ってごめんなさいね」
「あー……いえ。その、ああいう時って店長に泣きついたりしていもいいんですかね?」
酷く不安げな顔。
明らかに、なんか生前にの闇とか病みとかあった気配を感じる。
それに綺興ちゃんが答えあぐねていると、店長さんが間に入ってきて微笑んだ。
「まぁ。まぁまぁ。落ち着いて。構わないから。
分からないコトは聞いていいし、自分で判断できないコトは他人に判断を仰いで良いんだよ。
何やっても叱られてダブルバインド、トリプルバインド……みたくなってくと大変ですからね。はい。
まぁ私は生前、シックスバインドくらいはされてた気がしますけど。はっはっは」
笑い所の分からないジョークを口にして、店長が笑う。
店員さんは明らかに店長に引いてる気がするけど。
「正しくはセクステットバインドな気がしますけど……なんというか、二人とも死んでるんですから、もうちょっと気楽になったらどうですか?」
「死語やるコトなくてここでバイトはじめてみたものの、死者の身では自殺も出来できないから生前のように責められたらシンドイなー……とずっと思ってました」
店員のお姉さんから、あとで生前のプロフィール聞いておこう。
なんていうか務めてた会社を、つついた方がいい気がする……。
「まってまって。責めないから! 私も生前似たようなモンだったんで、同じコトはしたくないと思っているので!」
「……ほんとうですか?」
「ほんとほんと」
なにやら、店長さんと店員さんのディスコミュニケーションが解消されたっぽい。
安堵とともに店員さんが浮かべた笑みを見て、トラちゃんが笑う。
「あ。おねーさんの可愛いスマイル。お持ち帰りできます?」
それに店長さんも笑いながら注意をした。
「我々死者に滅多なコト言ってはダメですよ。うっかり取り憑いちゃうかもしれませんから」
「私たちにその気がなくても、取り憑いた際に呪いで衰弱死させてしまうかもしれません」
「それは確かに困る」
今のは無かったことに――と口にするトラちゃん。
だけど、そんな店長さんとのやりとりを見て、店員さんが憑きものの落ちたような顔をして笑っていた。
「では改めて、ご迷惑おかけしました」
ペコリと綺興ちゃんが頭を下げると、トラちゃんとハナちゃんも一緒になって頭を下げる。
「面白半分で入ってきちゃってごめんなさい」
「店長さん、怒らず一緒に助かる方法考えてくれてありがとうございました」
「いえ。いえいえ。気にしないでください。本来は間違えて入ってきても問題のないお店ですから。
もしお二人が若くてして死んでしまい、その気があるのなら、ここを手伝って頂けると幸いです」
「もち」
「ろん」
そうして、綺興ちゃんは二人を連れてお店を出て行く。
「貴女は戻らないので?」
「一応、オカルト事件の調査は仕事なので。
最後まで怪異の様子を確認しておこうかな、と」
「いや。いやいや。真面目ですねぇ。でも、その真面目さのおかげで助かるかもしれませんけど」
店長さんがそう言って振り向くと、平成リスペクトJKのコンビが私たちの方へと歩いて近寄ってくる。
その背後には――
「なにあのモノクロの影……なんか、私のウルズっぽいけど……」
「あら。あらあら。もしかしてさっきの言葉をそう解釈されちゃいました?」
「それって……」
「JKの領分を越えられない――だけど、女子高生時代の貴女であれば、JKじゃないですか。だから超能力も使えるんです」
「でも、当時はまだ能力に名前も付けてなければ、ウルズという形もなかったですよ?」
そう口にした瞬間、二人の背後にあったウルズっぽい影は姿を消した。
だけどすぐに、別の影――ゲームとかに出てくる髪の毛がヤシの葉みたいな、ドライアド風の影が生まれる。
「あれも、いつかの時代のどこかにいた女子高生の能力だったりします?」
「たぶんそうなんじゃないですかねぇ……」
「二人とも、どうするんですか……あれ……」
店員さんも顔を引きつらせている。
ドライアドの影は、一歩踏みしめる度に、足下に様々な植物が生えてくる。
歩く度に花畑か草原を作り出しているかのようだ。
「せっかく本物のJKになれそうだったのしに邪魔しまくってくれて……!」
「でも、ここから逆転して私たちの噂で世界を支配してあげるから」
「アタシらがJKのスピーカーになるんじゃない。世界中のJKがアタシらのスピーカーになるから」
「アンタをぶっ潰してあたしらは
これはまた……JKのわりには、壮大な野望を口にしはじめたな……?
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