Fail.5:

コスバのJK - スピーカー・オブ・サブスタチュー - その1



完結マークをつけてましたが、

唐突にエピソードを一つ思いついたので少しだけ連載再開です٩( 'ω' )وよしなに


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「最近、妙な噂があるんですよね」


 ランチタイムが一段落したようなタイミング。


 私――音野オトノ 存歌アリカのバイト先の一つ。

 喫茶店『夢アジサシ』にランチをしにきていた、私の友人がマスターに話しかける。


 友人の美橋ミハシ 綺興キキョウちゃん以外にお客さんはいないので、マスターも暇つぶしがてらに耳を傾けている。


 私? 私はキッチンでお皿洗いの最中だ。

 二人のやりとりは聞こえてるけどね。


「存在しないコスモバーガーが存在してる……みたいなやつ」

「存在しないのにしてる?」


 不思議そうなマスターに、綺興ちゃんは恐らくは一度うなずいてから、答えた。


「マスターはネットミームの『コスバのJKが言ってた』ってネタ分かります?」

「知ってるよ。主にSNSなんかで、ややこしい事柄に対して正鵠せいこくた言葉だったり、かなり専門的な知識や堅苦しい哲学なりを語ったあとで、コスモバーガーの隣の席に座ってた女子高生 JK が言ってた……みたいなのを最後に付けるネタだろう?」

「それです。それ」


 それは私も知っている。

 あまりのも女子高生らしくない話を女子高生が語ったというていにすることで面白が生じる感じのやつ。


「最初はそうだったんですけど、ミームが広がっていった結果、最近は何でもかんでもコスバのJKに語らせるのが流行ってるんですよね」

「ふむ……それが噂と何か関係が?」


 それは私も気になる。

 思わず洗い物の手を止めて耳を傾けた。


「その隣に座るJKは、長鳴ヶ丘ながなきがおか駅前のコスモバーガーが原典らしいって」

「……ん?」


 んんー?


 マスターの表情は分からないけれど、たぶん私と似たような顔をしているはずだ。

 思わず私はキッチンから顔を出し、マスターに訊ねる。


「この辺りにコスモバーガーって無いですよね?」

「ああ。一番近いのは隣駅の東操美ひがしくるみ駅前店のはずだよ」


 何を隠そう、この喫茶店『夢アジサシ』があるのが、長鳴ヶ丘駅前である。

 まぁ駅前というには少し離れた場所ではあるけれど――それはともかく。


「最初はわたしたちのような地元民や長鳴ヶ丘駅利用者が笑ってたんですけど、最近増えてるんですよ。噂のコスモバーガーに行ってきたって。聖地巡礼的な?」

「いや、私もマスターもその巡礼先が無いって話をしてるんだけど……?」


 綺興ちゃんの言っている意味が分からず、私とマスターは顔を見合わせる。


「言いたいことは分かるよ、存歌アリカ。わたしだって長鳴ヶ丘駅が最寄りの大学行ってるんだから」


 それはそうだ。

 私と綺興ちゃんは同じ学校に通っているワケだし。


「でもさぁ、SNSにそういう写真が上がりだしてるから、ちょっとね」

「写真……あるの?」


 マスターが驚いた顔をしてから首を傾げた。


「ほら、これですこれ」


 そう言って綺興ちゃんが自分のスマホを、私たちに見やすいようにカウンターテーブルの上に置いた。


 高校生っぽい男の子の三人組が、店の前でピースしている写真だ。


「どこにでもありそうな店構えじゃない?」

「まぁそうなんだけど」


 私のツッコミにうなずきながら、綺興ちゃんは画面をフリックして写真をスライドさせて、次の写真を表示させた。


「店内」

「これもふつうの写真じゃないかな?」


 マスターの口にする言葉に、私もうなずく。

 男の子たちがハンバーガーを食べてる様子の写真だけど、やっぱりこの写真から異常を感じない。


「この写真の問題はここ」


 綺興ちゃんが示すのは窓だ。

 その窓の外には、長鳴ヶ丘駅前にあるショッピングモールが映っている。


DOMICOドミコって別に長鳴ヶ丘以外にもあるんじゃない?」

「いや、音野さんよく見てごらん。こっちの窓に映ってる花屋さんと、その横の踏切」


 ドミコの一階の踏切近くの角にあるお花屋さんには見覚えがある。

 さらには、花屋さんのある角の先に駐輪場があるんだけど、それっぽいモノも薄ら映っているのでますます困惑してしまう。


「あー……これ完全に長鳴ヶ丘駅っぽい……」

「だけど我々は知っている。この角度で花屋が見える位置にコスモバーガーなんて無いはずだって」


 どういうことだろうか……と少し考えて、思いついたのは花屋が見える角度にあるお店のことだ。


「ミステリードーナツとか、ドールトール・カフェの店内から写真を撮って加工したカンジかな?」


 そう口にすると、綺興ちゃんも小さくうなずいた。


「わたしもそれは考えたんだけどさぁ……」


 苦笑しながらスマホを操作して、別の写真を呼び出した。

 私と同じ女子大生くらいだと思われる子たち四人組が、先ほどの男子と同じような写真を撮っている。


「一組だけなら加工って線も怪しいけど、続々と聖地巡礼報告が上がってるとなると、話変わらない?」

「何組もいるのかい?」

「はい」


 それは確かに話が変わる。


黄泉戸喫よもつへぐいとか大丈夫なんだよね?」

「ヨモツヘグイ?」


 マスターの疑問に、私と綺興ちゃんは首を傾げた。


「死者の国、あるいは現実と異なる場所にある食べ物を口にするコトだよ。

 食べるというのは受け入れるコトにも繋がる。生きている身で、死者の国の食べ物を口にすると、現実に帰ってこれなくなる――みたいな話さ」

「き、綺興ちゃん!?」

「えーっと……」


 慌てて綺興ちゃんに視線を向けると、彼女はスマホを操作して確認していく。


「とりあえず、今見せたアカウントの子たちはここで食べたあとも、SNSは続けてるっぽいですね」

「なら大丈夫なのかな?」


 とはいえ、少しばかり不安になる話だ。


「ちょっと様子見に行った方がいいかな?」

「あ。存歌が行くなら一緒に行きたい!」


 私が思わず零した言葉に、綺興ちゃんが目を輝かせながら食いついてくる。


「はぁ……音野くんはともかく、美橋くんは痛い目にあってるのに懲りないね……」


 その様子に、マスターは呆れたように嘆息するのだった。





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 substitute の カタカナ表記

 サブスタチュートとかサブスタチューツとかの方が正しいんだろうけど

 ネイティブの発音とか聞くと、サブスタチューと聞こえるので、それを採用

 代理人、代用品、……そんなカンジの意味を持つ言葉のひとつ

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