番外編⑤
呆れたようなエルナの声にしゅんと肩をすくめたあたしは、やがて謁見の間に到着する。
「アリエル第1王女殿下のおなーりー!!」
ぎいっという立て付けの悪い音と共に開け放たれた扉を潜った先には、重職についている大臣たちと両親、弟王子たち、そしてジルがいた。
「?」
とりあえず千鳥足でふらふらと王族席へと向かおうとしたたあたしは、けれど、ジルの横で思いっきり顔面からすっ転ぶ。
「アリエルさま!?」
ジルの悲鳴で一瞬失っていた意識を覚醒させたあたしは、床に座り込んだまま頭を左にこってん、右にこってんと大きく揺らし、ヒックという情けないしゃっくりをあげる。
「「アリエル………、」」
ママとエイベルが胃を抑えながらものすごく大きなため息をこぼした。
麗しいパパの額には千切れそうなぐらいにどくどくと脈打つ青筋。
「アリエル、お前は何故昼間っから酔っ払っているのだ」
「えーっとねぇ?いーっぱいのんだからぁ!!」
辛うじて残っていたはずの理性は、先程すっ転んだ瞬間におさらばしてしまっした。
「エルナ嬢」
「………アリエルさまは辺境の地から戻られた直後、フラれたー!!と叫びながらヤケ酒を開始いたしました。おそらくはその………、」
パパの言葉を受けたエルナが質問に答えている。聞かないといけないことなのだろうが、眠いからできれば聞きたくない。
「はぁー、………ジルよ。凄まじい入れ違いがあるようだが?」
「………の、ようですね」
「責任をとってさっさとやってしまえ」
「あの、ロマンチックさのある、」
「んな暇ない。自分たちが蒔いた種ぐらい自分たちでどうにかしろ」
「………はい」
呆れ返って額を抑えているパパと困りまくっているジル。
あたしがどちらの肩を持つかなんて決まっている。
「パパぁ〜、ジルいじめちゃめーだよー!」
「………いじめているのはお前だろ………」
「ん?」
首を傾げた瞬間、パパはものすっごく大きなため息を吐いた。
「ジル、さっさとこの酔っ払いをどうにかしろ」
「………はい」
ジルがあたしの前に膝をついた。
「アリエルさま」
「ん〜?なぁに?ジルー」
ポケットをガサゴソと漁ったジルは、やがてワインレッドの箱をおもむろに取り出した。
「俺と結婚してください」
「ん〜、いい、」
何も考えずに頷こうとしたあたしであったが、一瞬に酔いが覚め、頭が冷静になった。
「ん!?」
「俺、ジルはアリエル王女殿下を生涯愛することを誓います」
呆然としているアリエルの左の薬指に、プラチナのルビーが輝くリングがおさめられる。
「今この瞬間を以て、第1王女アリエルと近衛騎士団副団長ジルの婚約が結ばれたことを国王シリルの名において宣言する!!」
「は?え!?」
酔いが完璧に覚め、さぁっと血の気が引くのを感じる。
呆然と周囲を見回したアリエルは、最終的に目前で幸せそうに微笑んでいるジルの顔を見て、くらっとしたのを感じた。
「うぅ………、きゃぱ、おー、ばー………………、おえぇー、」
世界がいきなりブラックアウトしてしまったのだった———。
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