番外編⑤
◻︎◇◻︎
ジルの左遷から一年、末っ子シリルの息子たる甥っ子を可愛がったり、密かに辺境へと向かう準備をしたりしてのんびりとは言い難い日常を過ごしたあたしは、ついにパパの目をかいくぐれる時間を発見し、辻馬車に乗り込み、脱走した。
「ふっふふー!パパなんか知らないんだもんねーだ!!」
齢21歳にしてなかなかに大人気ないことをしている自覚は存在しているが、それもこれも頑固親父なパパのせいだ。決してあたしのせいではない。断じて、ジル成分が不足してイライラするから補給のために辺境に赴くのではない。
幾多もの辻馬車を乗り換え辺境の地に辿り着いたのはあたしが王宮を抜け出してから1週間後の出来事であった。
暗器を扱うために身体を鍛えているとはいえ、オンボロな荷馬車等々に1週間も乗り続けたあたしの身体はだいぶ凝り固まってしまっていた。というか、お尻が痛すぎる。
「よぉ!姉ちゃん、旅のお供に干し肉はどうだい?美人な姉ちゃん相手ならお安くするぜー!!」
辺境の地の中央街、多くの露店が並ぶ街を歩いていると、旅人向けの食料を販売しているおいちゃんに話しかけられた。
髪を短く見せるように工夫してローブを羽織っているあたしは、高貴さのカケラもない、世界中をルンルンと旅している夢見る少女にしか見えていないのだろう。
(うん、何だか悲しくなってきたぞ………、)
王女なのに、王女らしい服と化粧を身につけなければ王女に見えない容姿。
地味で、質素で、どこにでも紛れられる容姿。
せめて、双子の弟みたいな冷たい美貌があれば———。
せめて、末っ子みたいな可憐な愛らしさがあれば———。
何度も何度も願って、けれど絶対に手に入らなかったもの。
あたしは着るものに作用される自らの容姿が嫌いだ。
けれど、あたしはこれを使ってさまざまな職務を全うしている。
王女として華やかになれば、王女としての職務を。
黒騎士として真っ黒な軍服を身につければ、国の暗部の上位者としての職務を。
町娘として質素に愛らしく着飾れば、オフして自由気ままな時間を。
弟たちは、どんな服を身につけようとも滲み出てしまう高貴さに苦労している。
あたしは悩んだことのない苦しみだが、そちらもそちらで辛そうだ。けれど、あたしはどちらかというとそちらの方が欲しかったかもしれない。
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